ソニーグループは23日、経営方針説明会を開いた。映画や音楽といったエンターテインメント事業に人工知能(AI)やメタバース(仮想空間)などの先端テクノロジーを組み合わせる成長戦略を描く。コンテンツを制作するクリエーター支援に軸足を置き、米ネットフリックスなど配信大手とは違う立ち位置で成長を目指す。
ビジネスTODAY ビジネスに関するその日に起きた重要ニュースを、その日のうちに深掘りします。過去の記事や「フォロー」はこちら。「現実空間と仮想空間、そして時間を超え、クリエーターの創造性を開放する」。十時裕樹社長は同日の説明会に登壇し、10年後を見据えたビジョンについて語り始めた。「(産業や国の)境界を超え、多様な人の価値観をつなげる。あらゆる場に広がる体験と感動の新たなタッチポイントを作りたい」という。
ソニーは14日の決算発表時に27年3月期までの3カ年の中期経営計画を発表し、M&A(合併・買収)などに1兆8000億円を振り向け、営業利益(金融事業を除く)を年平均で10%拡大する方針を示していた。同日の説明会では新たな数値計画は示さず、ビジョンや施策についての説明が主体だった。
吉田憲一郎会長は「20世紀はウォークマンやカラーテレビを通じて感動を届けてきた。21世紀は感動を創ることに貢献する」と述べ、コンテンツを楽しむ消費者側ではなく、クリエーターの支援に成長の軸足を移したことを強調した。
吉田会長がクリエーター支援に関するキーワードとして何度も言及したのが「リアルタイム」だった。現実世界での人の動きなどをセンサーなどで切り取り、仮想空間に反映させる技術に力を入れる。
仮想の映像を背景に俳優やセットを撮影するバーチャルプロダクションを実例に挙げた。撮影した映像とCG(コンピューターグラフィックス)を組み合わせたコンテンツをその場で確認できる。スポーツではアイスホッケー選手の動きを捉え、リアルタイムで3次元アニメに再現する技術を活用し、新たなファン層を開拓しているという。
AIの活用では、ゲームのキャラクターのセリフに合わせて自動で字幕を制作する音声認識ソフトを開発。多くの言語が使用されるインドでは、映画の多言語の字幕を自動で作る技術も開発している。
吉田会長は「テクノロジー企業としてAIを積極的に活用する一方で、クリエーターの権利を守る必要もある」と難しい立場を説明した。米ハリウッドではAI活用に対する大規模ストライキが起きたことなどが念頭にある。「AIは人の創造性を代替ではなく支援するものだ」(吉田会長)といい、当面はコンテンツの制作時間短縮などに活用する考えだ。
ソニーは18年に英音楽大手EMIミュージックパブリッシングの運営会社を47億5千万ドル(負債込みの企業価値)で傘下に収めたほか、22年には米ゲーム大手バンジーを総額約37億ドルで買収した。
買収を重ねて集めたコンテンツIP(知的財産)を軸に、ゲーム、音楽、アニメ・映画といったメディアをそれぞれ組み合わせて事業を拡大できるかが焦点となる。音楽や映画で作ったCGをゲームの分野で活用するなど、テクノロジーを使ったIPの多重活用などを念頭に、十時社長は「事業の境界を超えてIPの価値を最大化する」と述べた。
ソニーは米投資ファンドと組み、米メディア大手パラマウント・グローバルに買収案を提示したことが明らかになっている。十時社長は「特定の報道についてはコメントできない」としたうえで、「一般論として有力な作品には関心がある」と話した。一方で、「中計の戦略投資予算1.8兆円を超える投資は現時点であまり考えていない」とも述べた。
岩井コスモ証券の饗場大介氏は「事業を展開する市場や競合に合わせた成長を示している印象を受けたが、それにプラスアルファの成長を目指してほしい。今の延長線ではない成長を見せてほしい」と注文を付けた。
エンタメ業界は作品ごとにヒットと不発の差が大きく、年によって収益が激しく変動しやすい傾向にある。コンテンツと技術の力でファンとのつながりを育み、継続的に収益を得られるモデルを作れるか。ソニーの実行力が問われる。
(佐藤諒、大道鏡花)
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