サンマだけではない不漁 サバやカツオも…
水産庁「温暖化の影響などで海洋環境が変化」
“呼子のイカ”漁師「釣果とのバランス取れていない」
料理人「一体どういうことなのか」
「未利用魚」に活路を見出す飲食店も
注目
専門家「人気の魚とそうでない魚の差が激しすぎる」
佐賀県唐津市の呼子町では毎年、5月から9月ごろにかけて、「ケンサキイカ」の水揚げが盛んに行われています。地元の漁協で青年部長を務める浪口太さんの漁船では、例年、一日に20キロほどのイカの水揚げがありますが、ことしは半分以下に落ち込む日も少なくないといいます。5月31日も、およそ10時間ほどの漁で水揚げできたイカは10匹ほど、重さにして5キロ余りでした。地元の漁協によりますと、浪口さんの船以外もケンサキイカの水揚げは例年より少なく、冬場に水揚げされる「アオリイカ」もことしは例年より少なかったということです。農林水産省によりますと、佐賀県のイカ漁は不漁が続いていて、およそ30年前のピーク時に2000トン程度だった漁獲量は、去年、400トン程度と5分の1ほどに落ち込んでいます。浪口さんは「最近は燃料費も高く、釣果と船を動かすことのバランスが取れていない。せっかくイカを目当てに訪れた観光客も、イカ不足で食べられないケースもあるので心苦しい心境だ」と話していました。
今月27日、和食やフランス料理のレストランの料理人らおよそ40人で作る団体のメンバーが水産庁を訪れ、森健長官に対し、水産資源の回復などにいっそう取り組むよう求める提言書を手渡しました。メンバーは、記録的な不漁となっているイカやサンマに加えて、だしを取るための昆布など、幅広い水産物の入荷が減少していて、このままでは従来どおりの料理を提供するのが難しくなるおそれもあると指摘しています。提言書の中では、水産資源の回復に向けた調査体制の強化や予算の拡充のほか、漁獲量の多い魚だけでなく、食文化にとって重要な魚についても、いっそう資源管理に取り組むことなどを求めています。メンバーの一人で、フランス料理店を営んでいる岸田周三さんは「去年入ったものがことし手に入らない。魚も小さくなるなど質も落ちていて、一体どういうことなのかと感じている。水産資源は一度失われてしまったら取り戻すことが難しく、食文化を守るためにも水産資源を守る必要がある」と話していました。
東京都内で和食の店を経営する林亮平さんは、毎日、各地の卸売業者などから新鮮な魚を仕入れていますが、このところ、手に入らない魚が増えてきていると感じています。そこで、消費者にはあまり知られていなかったり、漁獲量が少なかったりして、一般には流通しない、いわゆる「未利用魚」を料理に使い始めました。取材に訪れた日は、岡山県で水揚げされた「ヒラ」という魚を仕入れていました。この魚は小骨が多く、調理が難しいということですが、林さんは、同じように骨が多い「ハモ」の調理に使う道具や技術を使って、骨を切って食べやすくし、すしや皮を軽く火であぶる「焼き霜造り」などにしていました。
林さんは「特定の魚種だけをみんなが食べていると確実に資源が減るのは間違いないので、バランスよく管理をしながら、共存していくことが重要だと思う。その方向に社会が進むよう、店としても取り組みたい」と話していました。「未利用魚」などをめぐっては、回転ずしチェーンの「くら寿司」もメニューに取り入れるなど、外食大手でも活用が広がっています。
水産物の漁獲量が減少していることについて、国内外の漁業に詳しい東京大学大学院の八木信行教授は「気候変動による海の環境が変化している中で、今までどおり魚を捕ってしまっていることが背景の一つだ」と指摘しています。そのうえで八木教授は、魚の種類別では、日本海などで漁が行われているスルメイカは、水温の上昇により産卵場所が減っていること、サンマは、海流の変化で生息域が日本の近海から餌となるプランクトンの少ない沖合に移ってしまったことなどを背景に、それぞれ資源量が減っているとしています。そして「日本には300種類くらいの魚がいるが、スーパーなどを見ると、店に並んでいる魚は年中同じ種類で、15種類から20種類程度だ。人気の魚とそうでない魚の差が激しすぎると思う」と述べ、特定の魚ばかりを捕るのではなく、市場に出回っていない魚の活用なども必要だと強調しています。また「海の環境が変わってきている今の状況は、かなり危機的だ。韓国など海外でも漁獲量は減ってきており、国際的な協力体制を構築していくことも重要だ」と話しています。
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