【フランクフルト=林英樹】自動車大手の欧州ステランティスは欧州域内の車載電池と電気自動車(EV)生産で自前主義をやめ、欧州メーカーのライバルと目される中国企業との提携を広げる。コスト削減で経営の安定を図り、欧州で手薄な低価格EVを競合他社より先に量産できるようにする。中国企業を呼び込み、欧州連合(EU)による中国製EVの追加関税をかわす狙いもある。
「中国EV大手のコスト競争力は欧米より30%高い。守りに入るのではなく『(資産保有を抑え財務を軽くする)アセット・ライト戦略』でうまく中国勢の攻撃の波に乗り、ともに攻めることが我々の狙いだ」
中国は敵ではなく味方
ステランティスは13日、米ミシガン州で同社初の投資家向け説明会を開いた。そこでカルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)が強調したのは、中国企業と対峙するのではなく、彼らの技術を取り込み生かすしたたかさだった。
折しも12日にはEUの欧州委員会が中国製EVに対し、最大38.1%の追加関税を決定したばかり。中国政府による補助金で不当に廉価で販売される中国EVに対抗するための政策だが、タバレス氏は「関税で欧州と中国のメーカーの差が是正されると思わない」とにべもない。
代わりに注力するのが中国企業との連携拡大だ。メルセデス・ベンツグループなどと共同出資するリチウムイオン電池会社のオートモーティブ・セルズ・カンパニー(ACC)は6日、ドイツとイタリアで計画していた新工場建設の停止を決めた。
「EVの販売ペースは我々で制御できないが、速度に合わせ投資計画は調整できる」。停止を主導したのはタバレス氏だった。ステランティスは中国の電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)と割安なリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池の工場建設を検討している。ACCの新工場でもLFPを製造できないか協議する予定だという。
中国EVを世界販売
もうひとつが15億ユーロ(約2600億円)を出資する中国EV新興の浙江零跑科技(リープモーター・テクノロジー)だ。5月にオランダで設立した共同出資会社を通じ、9月からドイツやフランスなど欧州9カ国でリープモーターのEVを販売する。
まずは多目的スポーツ車(SUV)と小型車を投入し、中東や南米にも販売網を広げる。いずれのケースも中国政府の補助金を受けないため追加関税をかわすことができる。
「EVが真に普及するには中間層の支持が不可欠」。タバレス氏はEVの生産コストを現在の水準より40%下げ、2万5000ユーロ(約420万円)以下の低価格車でも利益が出るようにする必要があると説く。そのために高いコスト競争力を持つ中国企業と組むことが必要だったという。
ステランティス特有の立ち位置も大きい。中国の新車販売台数は世界のわずか1%。販売不振から23年までに中国車大手との合弁事業を解消したからで、独フォルクスワーゲン(VW)の35%、独BMWの32%と比べ圧倒的に小さい。
値下げ競争の激しい中国市場に縛られず、自由に中国企業と組み、EVの成長余地が大きな海外で事業展開できる利点を生かすことができる。
スリム化のためリストラにも取り組む。24年には1年前倒しで年50億ユーロのコスト削減目標を達成する見通しだ。発足当初の従業員数の約15%にあたる4万7500人を4年間で削減した。生産拡大を進めるイタリア工場でも利益率を高めるため人員削減を検討している。
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