20年ぶりとなる新紙幣発行が7月3日に迫る中、奈良県内でも自動販売機を使う事業者の多くが新紙幣への対応を目指している。だが、業種によっては未対応のまま新たな幕開けを迎える事業者も少なくなさそうだ。「1年程度は旧紙幣との併用になる」という見方が強いことが背景にあり、対応の遅れは大きな混乱にならないとみる。一方、券売機メーカーは“特需”に沸き、大きく売り上げを伸ばしたとみられる。
「併用期間に更新作業進める」
「新紙幣の発行時期には間に合わないが、その後の1年で着実に作業を進める。特に混乱もないだろう」
自社オリジナルを含む4タイプの自動販売機を設置し、各飲料メーカーの商品を販売する企業の奈良市内の営業所の担当者はこう話す。
この営業所は5月に新紙幣に対応するための自動販売機の更新作業を開始。6月中旬時点で完了したのは全体の約1割にとどまる。
同社によると、2021年11月の新500円硬貨発行の時は、新硬貨の割合が多くなるまで半年から1年程度を要した。自動販売機の更新作業は2カ月前から始め、約1年かかったという。「新紙幣も同じように旧紙幣との併用期間があるとみられ、その間に作業を進める」方針だ。
日銀大阪支店は自動販売機での対応に時間がかかることについて「台数が多く、コストもかかるのでやむを得ない」と話す。
3年前は新500円「同時がよかった」
一方、新500円硬貨発行からわずか3年後に紙幣も切り替わることで、改修費用が何度も発生することにいら立つ声も聞かれる。
近鉄奈良駅近くのラーメン店では、現金のみ対応の食券自動券売機を使っており、約10万円で現状の機器を部品交換で改修する方針だ。50代の店主は「新500円硬貨のときも同様の費用がかかった。自分たちのような個人店にとって10万円はかなり痛い出費で、紙幣と硬貨を同時に変更してほしかった」と不満をこぼす。
この店は、改修の順番待ちで、対応は今秋ごろになる予定。「7年前に購入した比較的新しいモデルで、紙幣変更に合わせてキャッシュレス対応にすることもできたため、迷ってしまった」と明かす。キャッシュレス対応は、安いモデルでも100万円以上はかかるため見送ったといい「迷った分だけメーカーへの連絡が遅れ、5月になってしまった。新紙幣しか持たない客を逃すかもしれないが仕方ない」と話した。
「遅れてきた特需」わく業界
事業者の中には経費節減のため、新500円硬貨発行の際に自動販売機などの改修を見送り、今回の新紙幣に合わせて新機種を導入する動きも目立った。このため、メーカーには特需が訪れている。
自動券売機製造大手のグローリー(兵庫県)では、24年3月期の新紙幣対応関連を含む部門の売上高が前期比10倍の約500億円に急増。このうち約6割を新機器の販売が占めた。同社は「キャッシュレス対応など券売機が進化する中で新紙幣発行の時期を迎えた要因が大きい」と分析している。【山口起儀】
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