新卒一括採用を主軸とする日本のやり方は世界でも特殊とされ、時代の変化に合っていないとも指摘されてきた。かつてエグゼクティブサーチファームの世界大手であるスイスのエゴンゼンダーで数多くのヘッドハンティングなどを手掛けた経験を持ち、「人を選ぶ技術」という著書もある小野壮彦氏に話を聞いた。

――日本企業は採用のやり方をどう変えるべきでしょうか。

「第二新卒や中途採用での『オーディション型』をやめるべきです。面接官が複数人いて、その正面に3人ほどの求職者が並ぶというやり方です。企業が強い立場で、候補者の志望度が高いかどうか、的確に自己アピールできるかどうかを見ます。新卒採用でやっていたオーディション型の採用を中途採用でもやっているのです」

小野壮彦氏 1973年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、アクセンチュアを経て99年にプロトレード起業(後に楽天〈現・楽天グループ〉に売却)。2008年エゴンゼンダー入社、経営層のヘッドハンティングなどを手掛ける。ZOZO本部長を経て、現在はベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズ(東京・千代田)で投資先企業の価値向上専門チームのトップを務める。著書に「経営×人材の超プロが教える 人を選ぶ技術」(フォレスト出版)=写真:本人提供

「海外ではそもそも新卒採用で育てる手法はコストが高すぎるということで、ここ数十年で採用方法が変わりました。米国企業も新卒一括採用のようなことをしていましたが、求められるスキルが高度化していく中で、新卒も日本で言う『キャリア採用』に近い手法で人を採るようになりました」

「大学のコンピューターサイエンス系の学部などで職業訓練校的な要素が強まったことも背景にあります。若者らは在学時代にインターンを経験します。企業と人材の力関係は逆転し、採用手法はオーディション型ではなく『お見合い型』と呼べるような、対等な関係の下で個別にプロセスを進める採用形態に変わってきました」

採用にプロとアマのような差

「ある日本企業がオーディション形式で年収3000万円程度の海外のエグゼクティブ層に面接を実施したところ、3人の面接官のうち役職が一番上の本部長がずっと黙っており、ほかのメンバーばかりが質問したことがありました。親分が黙っていることは海外ではありえず、このエグゼクティブは気を悪くして中座してしまいました」

「こうした面接のやり方自体が採用市場でかなり不利になっているのです。昔から人気の大手商社でもメガベンチャーや外資系コンサルティング会社などと競合する中で、特に30歳代の脂ののった優秀な人を採りこぼしてしまう。超大手のブランドはあるのに採用プロセスでがっかりさせてしまうのです」

「ベンチャーや外資などでは、相手が優秀だと分かれば決定権を持つ幹部が出てきて、1対1で志望動機だけではなく能力や人格までしっかり踏み込んでかなりプロフェッショナルな面接をします。経営の上層部が人材確保にものすごく時間と熱量をかけているのです」

「採用でもプロとアマチュアのような差が激しく出てしまい、古き良きオーディション面接を続けている企業はどんどん良い人材を採り逃し、他が採用しようとしない候補者を採らざるを得ない事態が多発しています」

日本の大企業はリーダーシップ欠乏症

――逆に採用がうまいと評価している企業はありますか。

「よく知られているのはメルカリです。シリコンバレー流の採用手法を大いに取り入れています。リクルートもレベルが高いです。一方で製造業はあまり取り入れられていないように見えます。多くの日本企業のやり方を見ていると、採用の戦略的重要性を軽視していると言わざるを得ません。人事部に依存しすぎているんです」

「新卒採用の時は全社規模でリクルーターを決めて面接したりするにもかかわらず、中途採用は人事に丸投げすることが多い。その人の成長やポテンシャルを見るところまで新卒採用ではやっているはずなのに、中途だと『即戦力じゃないと絶対に許さない』という感覚が強くなってしまう」

「中途は即戦力というイメージが強いですが、実は海外では意外にポテンシャル採用みたいな部分もあるのです。日本企業はやはりメンタリティーとして、主流は新卒入社、中途はどちらかというと補ってくれる人たちという感覚があるのでしょう」

――日本の大手企業も中途採用を増やしているように見えます。

「確かに中途採用は増えていますが、実は第二新卒や30歳代前半の中途採用が多く、リーダーや幹部採用に関してはまだまだ少ないです」

「新卒の延長である『中途労働力補充型採用』とIT(情報技術)などの専門職を採る『中途専門職採用』は結構やっている企業が多いですが、『中途メインストリーム幹部候補』といった採用が、大企業が一番苦しんでいるところです。グローバル競争に勝つために幹部候補生を採らないといけないのに、そこで負けまくっているのが現状です」

「どういう人がそれに当たるのか。例えば30歳代半ばぐらいで、コンサルティング会社でバリバリ活躍していたような優秀層です。こうした人材が外資系企業やベンチャーなどにどんどん移っています。ここ10〜15年、こうした人材を採用できたか否かで差がついており、大企業はどんどんリーダーシップ欠乏症になっています」

人事部を「狩猟型」組織に

――人事部はどう変革すべきでしょうか。

「会社として好調かどうかは議論が分かれるところですが、楽天グループはグローバル化を2000年代後半から進めており、欧米の有力IT企業のようなグローバル水準の採用システムやプロセスを持っています。社長と直結して動く採用チームがあり、営業活動に近い手法で採用しています。『狩猟型人材』が目標達成に向けてまい進しています」

「A社、B社から採用した人がそれぞれどのくらい自社に残っているか、学歴は大学より高校が重要なのか、(優秀な人材を探し当てやすい)最近のホットスポットはどこなのか、などの情報にもアンテナを張り、どうすればトップタレントが採れるか日々議論して実践しています。海外のグローバル企業と採用で直接競争しているところは強い。特にエンジニアなどは1人いい人材が採れると『十人力』になることもあります」

「リスクを恐れる管理型のメンタリティーではなく、メルカリや楽天のように狩猟型の『どうしたらトップタレントを採れるか』といったメンタリティーの人を置くべきです。あとは数字を追いかけて営業組織のように運営する。採用人数も上層部が数字を下ろすのではなく、そもそもどのくらいの人数が必要なのかといった戦略も自分たちで立案するくらいの力を持ってほしい」

「『採用部』をつくり、経営直結型で営業のエースを引っ張ってきて置くぐらいのことはやってもいい。トヨタ自動車では調達部門がエリートといわれますが、そういうふうに価値創造型の『攻めの人事部』が求められているのです」

経営層の総面接時間に10倍以上の開き

――先に、企業の上層部が人材確保にものすごく時間と熱量をかけているというお話がありましたが、実際、日本企業の経営幹部と海外グローバル企業の経営幹部が採用面接に割く時間はどのくらい違うのでしょうか。

「グローバル企業で鍛えられた経営幹部の人生の総面接時間は、日本企業の生え抜きの経営幹部と比べて10倍以上かもしれません。筋トレと一緒で、試行錯誤を繰り返しながら採用について真剣に考える機会が増えるのです」

――解雇規制の緩和について日本はどう対応すべきでしょうか。解雇規制が緩和されれば人材の流動化が進み、企業が採用と向き合う機会が増えるでしょうか。

「日本企業の競争力強化のため、個人的には絶対に緩和した方がいいと思います。例えば、部分解除のような方法で『年収1000万円以上』などの報酬水準や『5名以上の部下を持つ役割』などの職務水準によってバーを定め、それらより上位の層に絞って解雇を認める。解雇があるが給料の高い『プロキャリア』と、解雇はないが給料はプロキャリアほど高くない2つのキャリアから選択できるようにしてもよいのではないでしょうか」

「日本の強みはブルーカラーの人材がすばらしいこと。ここを弱体化させてはダメです。問題はリーダーシップ人材の流動性が低いこと。そのためホワイトカラーで解雇規制の緩和を実施すればいいのです」

「海外の場合、これにより産業の新陳代謝、企業の統廃合が加速した面があります。リーダーシップの優れた管理職人材が流動化すれば、国としての適材適所が保たれます。逆にブルーカラーの人を解雇してしまうと社会不安につながってしまいます」

――解雇規制を緩めると何が起きるのでしょうか。

「直感とは逆ですが、クビにする権限を持つ以上、実は人材育成に向き合うプラスの効果が考えられます。例えば米国はボスが部下を解雇できるので、ちゃんと従業員に適した仕事を与えているか自問自答します」

「変に解雇すると訴えられる可能性もあるからです。適切にフィードバックしていたかもすごく問われます。解雇できる力を持っているからこそ部下に優しく接する。責任感を持ち、部下に他の会社に行ってしまわれないよう限られた期間で成長機会を提供しようとする」

「日本では無関心と放任主義がまかり通っています。解雇規制が緩和されることになれば人材は流動化し、採用の良しあしは如実に企業の競争力に直結してくる時代になると思います。プロ野球か実業団野球か――。キャリア観が多様化する時代に、こうした新たな選択肢を設けてもいいのかもしれません」

(日経ビジネス 西岡杏=日本経済新聞社)

[日経ビジネス電子版 2024年4月5日の記事を再構成]

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