米保険大手ネーションワイドは米保険HSBグループとの提携を通じて、住宅保険加入者に対して漏電火災のリスクを検知するIoTセンサーを手掛ける米ティンへのアクセスを提供している=ティンのサイトから
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ネーションワイドは販売チャネルの多様化、積極的なリスク管理に対する需要の高まり、顧客との関係長期化など保険業界の変化に対応しようとしている。

そこで、中核事業を強化する成長の機会を重視し、保険金請求や引き受けの可否判断の改善など様々な措置を講じている。

同社は成長戦略でM&Aを活用していない。代わりに、自社やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のネーションワイド・ベンチャーズ経由での投資や提携により、他社とのネットワークを拡大している。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、ネーションワイドの2021年以降の投資と提携から同社の5つの重要戦略をまとめた。この5つの分野でのネーションワイドとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。

・判断支援プラットフォーム

・心身の健康

・老後の資金計画

・リスクエンジニアリング(リスク評価とコンサルティング)

・販売チャネルの開拓

ネーションワイドの戦略図(この図は21年以降のネーションワイドの投資と提携活動を示している。ただし、その活動を網羅してはいない)

ポイント

1.販売チャネルの多様化:ネーションワイドは組み込み型保険の活用や、総代理店(MGA)との提携により販売網を拡大している。

2.リスク管理に注力:保険金支払額を減らすため、リスクエンジニアリング機能の開発に取り組んでいる。

3.長寿への備え:心身の健康と老後の資金計画に力を入れた投資や提携を重視している。

1.販売チャネルの多様化

ネーションワイドは組み込み型保険機能への投資や、労災保険に携わるMGAとの的を絞った提携により、販売チャネルを多様化している。

組み込み型金融に対する注目の高まりを受け、ネーションワイドも組み込み型保険に着目している。例えば、24年1月には米ペトコ・ヘルス・アンド・ウェルネスのサイトでペット保険を販売するため、同社と提携した。

23年3月には、消費者への直販や、外部プラットフォームでの組み込み型保険を通じて自社商品を販売するため、米ワッフル保険(Waffle Insurance)と提携した。外部プラットフォームでの販売により、保険の販売収入に加え、こうした顧客に他の保険を販売する道も開ける。

24年2月の米アドロイト・ゼネラル・エージェンシー(Adroit General Agency)との提携など、労災保険を扱うMGAとの提携も進めている。こうしたMGAも組み込み型保険での提携と同様に、企業や取引先に他の商品(法人を契約者とする生命保険や、非認可保険会社の保険など)をセット販売する機会をもたらす。

2.リスク管理に注力

ネーションワイドはリスクエンジニアリングと損失管理に関連する機能に多額の資金を投じている。こうした機能は保険でカバーされる危険のリスクを管理し、その潜在的な影響を減らす予防的な措置だ。こうした措置は保険金支払額の削減に力を入れていることを示している。

同社はその一環として、IoTセンサーで収集したデータの活用に乗り出している。例えば、22年末には米保険HSBグループと提携し、住宅保険加入者に対して漏電火災のリスクを検知するセンサーを手掛ける米ティン(Ting)へのアクセスを提供した。

その1年後には、スマートホームテックの米レジデオとリスクエンジニアリング策の開発で提携した。レジデオのジェイ・ゲルドマッカー最高経営責任者(CEO)が23年7〜9月期に開いた決算説明会で明らかにしたように、この提携は「保険金請求の多い分野である暮らしの安全と水漏れのカテゴリー」に関連している。

こうした提携は保険業界全体がスマートホーム関連データの取得に関心を抱いていることを反映している。例えば、米ステートファーム保険は22年9月、米セキュリティーサービスのADTに12億ドルを出資した。

一方、ネーションワイドは農業保険に関連する火災の防止やリスクエンジニアリングにも力を入れている。23 年8月には農業保険加入者の漏電火災や機械故障のリスクを減らすため、米テレダイン・フリアー及びプレブテック・イノベーションズ(PrevTech Innovations、カナダ)と提携した。24年4月には農作物保険の加入者に消火システムを提供するため、米エンフォーサーワン(EnforcerOne)とも提携した。

3.長寿への備え

ネーションワイドは医療・ヘルスケアや老後資金計画により保険加入者の長寿を支援する機会も重視している。

医療・ヘルスケアの投資や提携では、高齢者ケアに重点を置いている。ネーションワイド・ベンチャーズは21年、米国の高齢者向け公的医療保険「メディケア」のケア情報を提供する米イージーヘルス(EasyHealth)と、在宅ケアに特化した米ベスタ・ヘルスケア(Vesta Healthcare)に出資した。22年には自立した生活を送れるよう支援するロボットを試験運用するため、米アマゾン・ドット・コムが出資する米ラブラドールシステムズ(Labrador Systems)と提携した。

老後の資金計画プラットフォームも力を入れている分野だ。企業の経営幹部は20年以降、この分野に注目しつつある。ネーションワイドは21年5月、米資産運用アライアンス・バーンスタインと提携し、収入保証型の年金制度を提供した。ネーションワイド・ベンチャーズは23年、外部プラットフォームにも組み込めるオンライン資産運用ツールを手掛ける米ニューリタイアメント(NewRetirement) のシリーズA(調達額1500万ドル)に参加した。

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