オリオンビール(沖縄県豊見城市)は、近鉄グループホールディングス(GHD)との資本業務提携を受け、観光・ホテル事業を強化する。沖縄観光が新型コロナウイルス禍から順調に回復しているため、同事業を成長分野に位置づける。近鉄のノウハウを生かして収益力強化につなげ、新規株式公開(IPO)に向けて弾みをつけたい考えだ。
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「近鉄の知見をインプルーブメント(改善)に使いたい」。オリオンの村野一社長兼最高経営責任者(CEO)は、18日に行われた決算発表の記者会見でこう語った。今後はホテルの新規開発や運営物件を増やすなど観光・ホテル事業に一段と注力する考えを強調した。
両社は10日に資本業務提携を結び、近鉄側がオリオン株の10%強を取得したことを明らかにした。提携内容は①両社が沖縄に持つアセットの活用②近鉄グループのホテル運営ノウハウなどの提供③観光客の送客・受け入れに関する協業④近鉄グループの流通・ホテルなど販売チャネルを通じた協業――の4項目だ。
近鉄傘下の食品スーパーなどによるオリオン製品の取り扱い拡大や、旅行会社での誘客強化など具体策は今後詰める。オリオンにとって最大のメリットは、伸びしろの大きい観光・ホテル事業の運営ノウハウを取得できる点にある。
観光・ホテル事業の強化は、IPOへの重要なステップにもなる。同事業の売上高は、コロナ禍真っただ中の2021年3月期には前の期比72%減の8億円台まで落ち込んだ。
その後、観光客の戻りとともに業績も急回復。23年度は国内から沖縄を訪れる観光客が過去最高の726万人を数え、インバウンド(訪日外国人)を含めた観光客全体でもコロナ禍前の85%まで回復した。24年3月期は前の期比28%増の43億円超となった。
村野社長は21年12月の就任以来、観光・ホテル事業を重視してきた。所有していた浦添市の軍用地や旧本社跡地を相次いで売却し、その資金を振り向ける形で23年11月に那覇市のホテルを、24年春に本島北部のリゾートホテルをリニューアルした。ハード面が整った今、次なる課題は誘客など運営面の磨き上げに移る。
「まずは何をどう伝えたら、海外客を含めてもっとうちのホテルに来てもらえるのかを考える必要がある」と村野社長。提携を受け、米国のホテルを運営した経験を持つ人材が、近鉄側からオリオン本体の観光不動産事業とホテル事業の部長を兼務する要職にすでに着任しており、近鉄側とのパイプ役を担っている。
さらに1人がホテル子会社のセールスマーケティング部門に6月中に着任する予定だ。将来的には近鉄GHD傘下の「都ホテルズ&リゾーツ」の会員組織と連携し、オリオン側の集客につなげることも目指す。
こうした近鉄GHDの素早い対応は、沖縄市場への関心の高さを示している。同社は近鉄沿線での既存事業に依存しすぎないビジネスモデルを視野に入れているが、オリオン株の買い増しについては否定する。
近鉄GHDの幹部は「オリオンと関係を作ることで、旅行やホテル事業など観光産業で沖縄への関与を深めていきたい」と語る。25年に開業する新テーマパーク「JUNGLIA(ジャングリア)」の運営会社へも出資済みだ。
両社の交渉は23年の暮れごろから本格化していた。半年足らずでの提携発表には「相手は大会社だけに時間がかかると思っていたが、予想外にスムーズだった」とオリオン幹部も驚くほどだった。
19年3月にTOB(株式公開買い付け)で野村ホールディングスと米投資ファンドのカーライル・グループの傘下に入ったオリオン。今回の資本業務提携について、地元経済界では「関西からの誘客強化が期待できる。上場を目指すうえでは正しい戦略」との声が主流だ。
そのIPOについて、村野社長は「市場の状況と、完全な準備ができた段階で実施したい」と語る。一方でネックになるのが観光・ホテル事業の規模だ。運営する2つのホテルの部屋数は計440室あまりで、最大収容人数も約1600人にとどまる。
村野社長は「飲食やオプショナルツアーなどホテルを中心とした関連ビジネスをどう上手に取り込むかがカギになる」と語る。まさにこの点にオリオンの成長余地がある。村野社長は同事業について「今後1年間で成長率10%は軽々と超えたい」と意欲を示している。
(奈良部光則)
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