トヨタ自動車が完全子会社化したプライムアースEVエナジーはEVやPHV向けのバッテリーパックを手掛ける=同社サイトから
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

EV市場は新たな局面に入っている。自動車メーカー各社は主流の消費者層にアピールするため、ラインアップの拡大や値下げ、高度な電池と充電の技術など多角的なアプローチをとるようになっている。

運転支援技術に引き続き大きな関心を寄せているほか、製造プロセスを自動化するためにヒューマノイド(ヒト型ロボット)の可能性も探っている。

今回のリポートではCBインサイツのデータに基づき、自動車業界リーダーの投資、買収、提携と決算説明会のデータから2024年でのこれまでの活動を分析した。

自動車業界リーダー、EVバリューチェーンに照準(チェック印は各社の24年1月1日〜5月28日の自動車テックへの投資、買収、提携活動を示している。ただし、活動を網羅してはいない)

ポイント

自動車業界リーダー、EVバリューチェーンに引き続き大きな関心:「電池テック」は活動が最も活発な分野で、24年1月1日〜5月28日の活動件数は15件を超えている。クリーンな輸送手段へのシフトにより、水素燃料電池や持続可能な燃料などEV以外の推進形態への投資も増えている。

生成AI(人工知能)、クルマと自動車工場に進出:ドイツのBMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン(VW)、米フォード・モーター、トヨタ自動車などは音声アシスタントを強化するため、米オープンAIが開発した対話型AI「Chat(チャット)GPT」をクルマに搭載しつつある。AIを頭脳とするヒト型ロボット(アンドロイド)も工場に進出し、BMWは米フィギュアAI(Figure AI)と、メルセデス・ベンツは米アプトロニック(Apptronik)と提携している。米テスラは自社開発したヒト型ロボット「オプティマス」を進化させ、韓国・現代自動車傘下の米ボストン・ダイナミクスはヒト型ロボット「アトラス」を刷新した。ヒト型ロボットの用途はまだ限定的だが、倉庫内のモノの移動や機械の操作などでの利用が見込まれる。

自動運転になお大きな関心:業界リーダーの多くは開発戦略の重点を完全自動運転車から運転支援機能の強化に転換しつつある。もっとも、中国の比亜迪(BYD)は最近米エヌビディアと、VWはイスラエルのモービルアイと自動運転の推進に向けてそれぞれ提携した。一方、現代自動車はモビリティーサービス用の自動運転車の開発に力を入れるため、米自動運転技術モーショナル(Motional)の過半数株を10億ドル近くで取得した。

業界リーダーの電池テックでの活動

自動車業界リーダーが24年に精力的に活動している「電池テック」の主な買収と提携をまとめた。

・トヨタ、車載電池メーカーのプライムアースEVエナジーを完全子会社化

・BMW、バッテリーグレードのリチウムの供給を確保するため、リチウム最大手の米アルベマールと提携

・独ポルシェ、生成AIを活用した電池開発プラットフォームの米ケミックス(Chemix)に出資

買収:トヨタとプライムアースEVエナジー

トヨタ、プライムアースEVエナジーの完全子会社化で電動化の未来に備え

・トヨタはパナソニックHDと共同出資して設立したプライムアースEVエナジーを完全子会社化した。

・プライムアースEVエナジーを活用してEVやプラグインハイブリッド車(PHV)向け電池を生産し、EVエコシステム(生態系)の拡大を目指す。

・これにより他の業界プレーヤーによる持続可能な輸送手段へのシフトが加速し、EV市場の競争が激しくなる可能性がある。

提携:BMWとアルベマール

アルベマール、複数年の大型契約でBMWにリチウムを供給

・BMWとアルベマールはバッテリーグレードの水酸化リチウムの供給契約を結んだ。25年から実施される。

・この提携には供給だけでなく、エネルギー密度が高く安全なリチウムイオン電池の技術の共同開発も含んでいる。

出資:ポルシェベンチャーズ、ケミックスのシリーズAに出資

ポルシェベンチャーズ、次世代EV電池の供給を加速するため、ケミックスに出資

・出資の目的はケミックスが手掛ける生成AIを活用した自動運転ラボの拡充だ。このラボでは特殊な電極スラリーの設計や、急速充電のアルゴリズム(計算手法)など次世代の電池テックの開発に取り組んでいる。

・ケミックスのAI電池開発プラットフォーム「ミックス」は、高性能の電解質素材を自律的に開発する能力を示し、充電サイクルが従来よりも長い電池の開発につながった。

ポルシェベンチャーズのケミックスへの出資は、持続可能なモビリティーと新興テックに力を入れるポルシェの方針に沿っている

決算説明会、EV価格の下落圧力が浮き彫りに

下記の内容は自動車業界リーダーの24年1〜3月期決算の説明会に基づいている。

分析:3つのポイント

テスラ、手ごろな価格のEVの投入スケジュールを前倒しする方針を表明。自社を「AIロボット企業」と位置づけ

・テスラは24年1〜3月期決算の説明会で、自社を単なる自動車メーカーでなく「AIロボット企業」と位置づけ、AIとニューラルネットワークによる自動運転機能の開発に力を入れていることを明らかにした。

・高度運転支援機能「フルセルフドライビング(FSD)」の他の自動車メーカーへの外販を将来の成長と価値の重要な原動力とみなしている。カメラを基盤とした自律走行システムの開発を加速するため、AIを訓練するインフラに多額の費用を投じている。

CBインサイツによるテスラの24年1〜3月期決算発表の詳細分析

フォード、多難なEVシフトを乗り切るため、ハイブリッド車とコスト削減に注力

・フォードは24年1〜3月期決算の説明会で、戦略の転換点にあることを明らかにした。成長、利益率、資本効率を高めてビジネスモデルを強靱(きょうじん)化する戦略「フォード・プラス」への決意を新たにした。

・EV事業が大きな試練に直面していることを認めた。業界の激しい価格引き下げ圧力により、EV部門「モデルe」の1〜3月期の純損益は13億ドルの赤字となった。

フォードのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は1〜3月期決算の説明会で、主力のEV車「マスタング・マッハE」の値下げが主流の顧客層の需要を喚起したと強調した

ポルシェ、1〜3月期の難局切り抜け、新型モデルとデジタル化で7〜12月期の業績回復に期待

・ポルシェは1〜3月期決算発表で、販売台数と売上高が減少したことを明らかにした。モデルチェンジとサプライチェーン(供給網)の問題により、納車が遅れたことが響いた。

・こうした逆風にもかかわらず、主力のスポーツ車「911」をはじめ受注は好調で、「マカン」や「タイカン4」など新型EVの反応も上々なのは24年後半に向けた有望な兆しだと強調した。

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