日銀は3日、新紙幣の発行を始める。1万円札には日本の資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一が描かれる。1万円札の「顔」が変わるのは、1984年に聖徳太子から福沢諭吉に切り替わって以来、40年ぶりとなる。
日銀の当座預金から現金を引き出す各地の金融機関に日銀が新紙幣を渡すと、紙幣が発行されたことになる。通常の紙幣の受け渡しは午前9時から始めるが、今回は特別に8時からに早める。もっとも、入手できる銀行などの店舗は3日時点ではごく一部に限られそうだ。
「改刷」と呼ぶ紙幣のデザインの刷新自体は04年以来20年ぶりとなる。今回の新1万円札は表面に渋沢栄一の肖像を描き、裏面には辰野金吾が設計し「赤レンガ駅舎」として親しまれてきた東京駅の丸の内駅舎をあしらう。
新5千円札の肖像は1900年に女子英学塾(現・津田塾大学)を創立するなど、近代的な女子高等教育に尽力した津田梅子を描く。裏面は古事記や万葉集にも登場する藤の花で彩る。
新千円札の肖像は北里柴三郎を描く。日本の「近代医学の父」として知られ、感染症予防や細菌学の発展に大きく貢献した。裏面は葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」を取り上げた。新紙幣に描かれる3人とも明治時代に活躍した。
財務省・日銀はより偽造しにくくなるように、およそ20年のサイクルで改刷してきた。財務省は印刷技術の進展や、目の不自由な人や外国人がより使いやすくなるようにするユニバーサルデザインの潮流を改刷の理由に挙げる。
今回は「3Dホログラム」を世界で初めて紙幣に取り入れた。見る角度によって肖像画の向きが変化する。お札の額面を表す数字を大きくした。指で触って券種を識別しやすくもした。3つの紙幣の寸法は変わらない。
これまでの紙幣は今後も使える。警察庁の露木康浩長官は6月の記者会見で、発行に便乗して「従来の紙幣は使えなくなるとうそをつき、新紙幣との交換名目でだまし取る詐欺が発生する恐れもある」と述べて注意を呼びかけた。
財務省は19年に改刷や新紙幣のデザインを発表し、5年の準備期間を設けた。24年6月末時点で金融機関のATMの9割以上、スーパーやコンビニエンスストアのレジは8〜9割で新紙幣に対応できるようになっているもようだ。一方で、キャッシュレス決済の普及から、新紙幣への対応を見送る店舗もある。
国立印刷局は25年3月末までに、計74億8千万枚の新紙幣を用意する。日銀によると、24年6月末までの備蓄量は52億枚程度になった。前回の改刷では1年程度でおおむね6割程度が入れ替わった。
キャッシュレス決済の普及は進み、なお現金大国の日本であっても紙幣の利用頻度は以前より下がり、現金を保有したり用意したりするコストは相対的に高まっている。新紙幣の登場はキャッシュレス時代の現金のあり方に一石を投じることにもなりそうだ。
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