遠州織物の端材や規格外品を紙の原料とする

静岡県は綿などの天然繊維を中心に織る県西部の特産品「遠州織物」の端材を紙にリサイクルする技術を開発した。2023年度の県の研究指定枠として富士工業技術支援センター(静岡県富士市)が研究し、富士共和製紙(同)の工場で試作した。紙は繊維会社などで活用し、廃棄物を資源として県内で循環させるモデルを目指す。

紙はパルプに綿や綿などの繊維を3割配合した。パルプのみの印刷用紙などと異なり、繊維らしい柔らかな風合いを持つ。1平方メートルあたりの重さは160グラム。厚みは印刷用紙の約2倍で強度は同程度ある。

色は生成りの白と着色したグレーの2種類。富士工業技術支援センター製紙科の深沢博之科長は「織物は生地を織ってから染めることが多く漂白する必要がないため、古紙と比べても原料として用いるのが容易」と話す。

生地から織物を織る際に出る端材や規格外の織物は現状は廃棄されている。これらを織物工場などから回収し、原料として製紙会社に届け、リサイクルした紙をアパレルや繊維会社に提供することで循環を目指す。

富士共和製紙の工場でリサイクル紙を試作した

今回の試作では500キロの端材を使って1.2トンの紙とした。「量産化すればほぼ100%の再生率になる」(深沢科長)。開発したリサイクル紙は既に県内のアパレル店などで店舗の名刺や来店者に渡すポストカードに活用し始めている。

富士工業技術支援センターは22年度から研究を始めた。23年度には静岡県新成長戦略研究の政策課題指定枠の一つに選ばれ、研究費として200万円を得た。24年度以降は製造現場で繊維原料を扱う問題点などを検証する。パルプだけではなく古紙原料と混ぜて使えるかも探り実用化したい考えだ。

繊維ごみから紙をつくる動きは県外でも広がる。21年設立の一般社団法人サーキュラーコットンファクトリー(東京・目黒)は綿製の衣類などの繊維生地を原料として集め、製紙会社と組んで印刷用紙や和紙を製造・販売している。

欧州連合(EU)の主要機関は域内で事業展開するアパレル事業者が売れ残った衣料品や靴など服飾品の廃棄を禁止する法案を25年に施行することで大筋合意した。流行品を量産・消費する「ファストファッション」で膨らむ廃棄衣料品への批判は国内でも関心を呼ぶ可能性がある。国内外で繊維の再生技術に注目が高まる。

日本製紙連合会(東京・中央)は紙の国内需要が24年は981万トンと前年見込みに比べて6.5%減ると予測する。デジタル化の進展などを背景に紙の市場は縮小傾向にあるが、製紙業界にとって廃棄物の活用による環境負荷低減への貢献を付加価値にできれば新たな役割を切り開く可能性もみえてくる。(村上和)

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