ロケット開発のインターステラテクノロジズ(IST、北海道大樹町)の稲川貴大社長は4日、小型衛星向けロケット「ZERO」について「2024年度以降の打ち上げを目指す」と改めて述べた。人員を拡大しており、10月には大樹町から車で約1時間ほどの帯広市内に支社も稼働予定だ。
同日東京都内で事業報告会を開き、足元の開発状況や会社体制について紹介した。ZEROの打ち上げ見通しについては、従来から変わりないと説明した。
ZEROは全長32メートルと、先日打ち上げに成功した国の大型基幹ロケット「H3」の約半分程度の大きさだ。打ち上げ費用がH3が50億円に対して、ZEROは量産時には8億円以下に抑えるとしている。比較的低価格な打ち上げコストで宇宙輸送サービスの需要を開拓する構想だ。
23年9月には文部科学省のスタートアップなどを支援する事業の採択を受けた。24年9月末までに最大20億円が交付され、ZEROの研究開発資金に充てられている。
23年12月には、ZEROのエンジン「COSMOS(コスモス)」の燃焼器単体試験に成功した。エンジンの重要部品である燃焼器の試験成功は打ち上げに向けた「大きな進捗だ」(稲川社長)。自社設計する燃焼器は従来比で部品数を減らした。エンジンは、ロケット開発コストの半分程度ともされている。
打ち上げに向けた体制構築も進む。同社は24年3月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協定を結び、JAXAの公募で開発された小型人工衛星を打ち上げる際には、ISTが優先的に契約できる民間事業者に選定された。ISTの他には、小型ロケット「カイロス」で知られるスペースワン(東京・港)なども協定を結んでいる。
4月にはイタリアのD-Orbit社と包括契約を締結。同社は複数の小型人工衛星を搭載できる装置を自社開発・製造し、衛星を事業者が希望する軌道に正確に投入するサービスを提供しており、すでに衛星の軌道投入実績を持つ。両社には丸紅が出資している。
開発を担当する中山聡取締役は「この1年間の(縮尺を小さくした)サブスケール試験が7月中には終了する。フルスケールの試験に取りかかっている」とし、「開発部に120人以上のメンバーがいる。開発は順調だ」と強調した。
宇宙開発評論家の鳥嶋真也氏は「今後エンジンのフルスケールの燃焼試験成功が、一里塚になる。エンジンを束ねて燃やしたり、エンジンとタンクをつなぎ発射台に立てた状態の試験も必要だ」とみる。試験をする場所やそのための設備の整備も欠かせない。
ZEROは北海道スペースポート(HOSPO、北海道大樹町)で整備が進む発射場「LC-1」から打ち上げられる予定だ。本社を置く大樹町内に発射場があることに加え、ロケット開発から製造、自社で人工衛星開発も担う「垂直統合型」の事業モデルが強みになるとしている。
従業員の採用も強化している。現在の社員数は170人と、23年1月から4割強増えた。中途採用がメインで宇宙航空業界や自動車、機械といった幅広い製造業などから採用している。社員の8割がエンジニアと、技術者集団だ。「助っ人エンジニア」として、トヨタ自動車などこれまでに累計9社から18人の出向者を受け入れた。
宇宙開発スタートアップを巡っては、月面輸送サービスの構築を目指すispaceが23年、東証グロースに上場。レーダー衛星を使って地球のデータを収集する衛星開発のQPS研究所や、宇宙ごみ除去のアストロスケールホールディングスも東証グロースに上場した。稲川社長はISTの上場の可能性について、ZERO初号機の打ち上げ後に検討する意向を示した。
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