英アストラゼネカが提携した米アブサイ(Absci)は生成AI技術を活用した創薬を手掛けている=同社サイトから
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

英製薬大手アストラゼネカは5つの重点領域「オンコロジー(腫瘍・がん)」「循環器・腎・代謝/消化器疾患」「呼吸器・免疫疾患」「ワクチン・免疫療法」「希少疾患」全てで30年までにトップ3入りを果たす目標を掲げている。

この目標を達成するため、社内投資(178の研究開発プロジェクトが進行中で、23年の研究開発費は前年比12%増の110億ドルに上った)に加え、有用な新興技術に目を向けている。

同社は新薬開発のコスト削減と迅速化に向け、AIを活用した創薬、診断、リアルワールドデータ(RWD、医療カルテや医療機器などから収集したデータ)を手掛ける企業と戦略提携している。例えば、23年12月には、生成AIが設計した抗がん剤を開発するため、AI創薬の米アブサイ(Absci)と2億4700万ドルで契約した。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、アストラゼネカの22年以降のテック企業とのビジネス関係から4つの重要戦略をまとめた。この4つの戦略でのアストラゼネカとの関係に基づき、企業を分類した。

・AI創薬、AIの活用による抗体の発見

・診断

・遺伝子編集

・RWD

アストラゼネカの戦略図

この図はアストラゼネカの22年以降の投資と提携活動を網羅してはいない。中国の投資銀行、中国国際金融(CICC)との合弁事業によるファンドの取引も含む。

ポイント

1.アストラゼネカは新たな創薬ターゲットを見つけ、新薬投入を迅速化するためにAIに注目している

2.特にがんの領域で診断力を高めるため、他社と提携している

3.創薬の取り組みを支えるため、RWDを活用している

新たな創薬ターゲットを見つけ、新薬投入を迅速化するためAIに注目

アストラゼネカは創薬プロセスを効率化するため、AIを一段と活用するようになっている。同社の23年の決算説明会では、AIへの言及回数が急増した。

AIの活用により創薬にかかる時間とコストを大幅に削減し、次世代の治療薬とワクチンの開発サイクルを加速し、少ない実験で標的分野のたんぱく質を設計したいと考えている。

最近では、アブサイの生成AI技術を活用して新たな抗がん剤を開発するため、同社と2億4700万ドルで契約した。一方、アストラゼネカ傘下で希少疾患治療薬を開発する米アレクシオンは23年9月、米バージ・ゲノミクス(Verge Genomics)に4200万ドルを出資し、希少な神経変性疾患や神経筋疾患のAI創薬プラットフォームを活用するために提携した。

さらに、アストラゼネカは22年、CICCとの合弁事業によるファンドを通じて米Rgenta TherapeuticsのシリーズAラウンド(調達額5200万ドル)でリード投資家を務めた。Rgenta はがんや神経疾患の低分子経口薬の開発を手掛ける。

さらに、英ベネボレントAI(BenevolentAI)と共同で、AIと機械学習を使って慢性腎臓病(CKD)と特発性肺線維症(IPF)の治療薬開発にも取り組んでいる。この取り組みはアストラゼネカの2つの重点領域にまたがる。両社は22年、提携範囲をループスと心不全に拡大した。

特にがんの領域で診断力を高めるため、他社と提携

アストラゼネカは重点領域の1つとして、腫瘍・がんの研究開発に広く取り組んでいる。診断ツールを使って病気を早期に発見して治療薬を提供することで、寛解に至る可能性を高め、自社の対象疾患に対する理解を深めようとしている。

そこで、在宅向け血液バイオマーカー検査を手掛けるキャピテイナー(Capitainer、スウェーデン)のほか、AIを活用してがんを診断する米ソフィア・ジェネティクスや米医療機関スローン・ケタリング記念がんセンターなどと提携している。

アストラゼネカは特に乳がんに力を入れており、寛解した乳がん患者の体内に残るがん細胞「微小残存病変(MRD)」を検知する検査を開発するため、米ネオゲノミクス傘下でリキッドバイオプシー(液体生検)を手掛ける米イニバータ(Inivata)などと組んでいる。

さらに、米ガーダントヘルスと共同で、自社で開発した乳がん治療薬「カミゼストラント」の有効性や副作用を予測するコンパニオン診断検査を手掛けるほか、第一三共及びアイベックス(Ibex、イスラエル)と提携し、AIを活用して病理医による乳がんの診断や治療を支援している。

創薬の取り組みを支えるため、RWDを活用

製薬会社は自社でデータセットを構築すれば、創薬や臨床研究、製造販売後調査で恩恵を得られる。だが、データを統合し、有用なデータウエアハウスを築くにはコストも時間もかかる。

そこで、アストラゼネカはRWDを効率的に取得するため、特にがんの領域でこうしたデータセットを構築している企業と提携している。

例えば、米ピクニックヘルス(PicnicHealth)とアストラゼネカは複数年提携を通じ、米国の乳がん患者から長期にわたってRWDを収集している。

一方、RWDを提供する米テンプス(Tempus)と提携し、抗がん剤研究用のデータライブラリーも構築している。

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