公正取引委員会が、音楽と放送の両業界での契約や事務所からの移籍や独立などをめぐるトラブルについて、実態調査を始めた。公取委の担当者は、近年、アーティストらの独立が相次いでいるとして、「独立後に取引関係で困っていないか、その後も活躍できる環境が整っているのかを調べたい」としている。

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 公取委は18日、ウェブサイトにフォームを設け、問題と思われる情報を募り始めた。

 今回の募集で想定しているのは、アーティストや俳優、タレントらが事務所からの移籍・独立を事務所側に妨げられた▽一方的に契約更新された▽移籍・独立後に芸名や写真の使用を制限された――といった問題。ほかにも業界調査も行い、独禁法上の問題が起きていないかを調べ、年内をめどに報告書をまとめる方針。

 公取委はこれまでにも芸能界に対する注意喚起などを活発に行ってきた。

 代表的なのが、2017年に設置された有識者による「人材と競争政策に関する検討会」だ。フリーランスの増加を背景に、芸能人やスポーツ選手を含めた「個人」の人材獲得が不当に制限されれば、自由で公正な競争を阻害する恐れがあるとして、独禁法上の考え方を整理。18年公表の報告書は、芸能人を含む働き手に対し、不利な条件で取引する行為や、取引先が共同で引き抜き・移籍を制限する行為などが同法上の問題にあたる可能性を示した。

 報告書のまとめにあたって行われたヒアリングでは、芸能界からは「投資の回収が済むまで移籍が認められない」「芸名を使わせなかったり、うその情報を流したりして、移籍が妨げられる」といった情報も寄せられたという。

 報告書の公表後、公取委は、「契約が終わった後、一定の期間は活動できない義務を課して移籍や独立をあきらめさせる」「事務所の判断だけで契約を一方的に更新できる項目を盛りこむ」など、独禁法上の問題行為を芸能界に当てはめて示すなどして、注意をうながした。

 19年にはジャニーズ事務所(当時)に対し、独立したSMAP元メンバーをテレビ出演させないよう圧力をかければ独禁法に違反すると「注意」を出し、広く報じられて話題になった。

 報告書を受けて、業界で契約書のひな型を見直す動きにつながったり、事務所と芸能人側が争う民事訴訟でも、芸能人側が公取委の考え方を採り入れて争う事例も出てきたりした。実際に移籍・独立も相次ぐようになり、公取委としては、改めて業界の変化を踏まえた実態を調べ、問題があれば注意喚起につなげる必要があると判断したとみられる。

 今回の調査は、業界の取引慣行などを調べ、独禁法上の視点から注意を促すのが主な狙い。行政処分を念頭に個別事案を調べる違反調査(審査)とは異なるが、調査で得られた情報は審査にも活用する方針だ。

 公取委への情報提供はウェブサイト(https://www.jftc.go.jp/soudan/jyohoteikyo/geinou.html)から。

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