「ホッとした気持ちになり、ぐっすり眠れる」。津市の洋品店「やまちょう」が開発した、手をふんわりと包み込む手専用布団「おてぶとん」がこんな評判を呼んでいる。当初は手荒れケアのために開発したが、試着した人からの「着けるとほっとする」との声をヒントに、心が安らぐ効果に重点を置いて制作した。中小企業基盤整備機構の「全国からの90の逸品」に選ばれるなど高評価を獲得。経営者の園佳士(よしひと)さん(46)は「いろんな方との出会い、運があってここまで来ることができた」と振り返る。
きっかけは2018年ごろ、手荒れに悩む女性従業員との会話だった。「かかとの角質がケアできる靴下のように着けるだけで手がすべすべになる手袋はないかな」。園さんが、県商工会青年部連合会の理事仲間だった大西縫工所(大台町)の大西啓太郎社長に相談すると試作品が届いた。
素材は天然の油分を含むオーガニックコットン、形は大きめのミトン。だが、町内の主婦に試着してもらうと、布地のきめが細かすぎるのか「荒れた手に引っ掛かって痛い」という。いったんは商品化を諦めた。
転機は新型コロナウイルスの感染拡大だった。店は客が減り、20年3月の売り上げは前年比40%減に落ち込んだ。店のある旧白山町は、人口のほぼ半数が65歳以上の高齢者。周囲から「不安で夜眠れない」「子や孫も帰って来ず、張り合いがない」と声が聞こえてくるようになった。
その時、園さんは試着した主婦の言葉を思い出した。「痛い」と言った後に「でも、着けていると何かホッとするのよね」とつぶやいたのだ。それは、幼い時の記憶に残る、温かくやさしいお母さんの手に包まれているような感覚ではないか。幸いコロナのおかげで時間があった園さんは1カ月半かけてコンセプトを練り直した。そして「手袋」ではなく「布団」として売り出すことを思いつく。コンセプトは「明日の笑顔を作る寝室の手のおふとん」だ。
手の保湿、保護機能をそのまま生かすため、素材は当初と同じオーガニックコットンを使用。鍋つかみと間違われないよう手を入れる履き口を長くするなどデザインやサイズを工夫した。フリーサイズで、全長約29センチ。パッケージに着物の収納に多用される「たとう紙」を用い、1870(明治3)年の創業時に呉服店だった歴史を感じさせるロゴや落款も入れた。
21年6月に「おてぶとん」を商標登録。「手がすべすべになった」との声も寄せられ、各地の物産展やギフトショーで話題に。22年には「ニューインテリアスタイル~五感をここちよくする機能性商品コンテスト~」でベスト3に入った。
園さんは「コロナ禍がなければ生まれなかった商品。関わった全ての方にありがとうと伝えたい」と話している。【山本直】
明治創業、前身は呉服店
1870(明治3)年、呉服店「岩脇商店」として創業。「山長呉服店」から現在の「やまちょう」になった。JR名松線家城駅近くで洋品店・ギフトショップを経営。神戸の商社に勤めていた園佳士さんが17年前に義父の後を継ぎ、5代目となった。店舗2階をイベントホールに改修、コンサートや講座を開くなど地域の交流にも力を入れている。「おてぶとん」は税込み6490円。問い合わせはやまちょう(059・262・3003)。
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