法律家などで構成する国際環境団体「クライアントアース」のローラ・クラーク最高経営責任者(CEO)が6月に来日し、都内で記者会見を開きました。クライアントアースは世界9カ国に約300人のスタッフを抱え、企業や各国政府の環境関連の取り組みなどをチェックしています。これまで英国政府やKLMオランダ航空を訴えて勝訴した実績があります。
クライアントアースはこの2月、日本事務所を開設したばかりです。クラークCEOは会見で「日本は経済大国で二酸化炭素(CO2)の排出量が世界5番目に多く、グローバルの排出量削減に不可欠な存在だ」と強調。化石燃料に関わる企業に対して融資を続けている金融機関の動きや、各企業の気候変動対策を注視していく方針を示しました。日本事務所には企業法務のベテラン弁護士ら3人が在籍しており、今後、日本企業への働きかけを強めることも予想されます。環境関連の情報開示やデューデリジェンスなどに関するルール整備が世界で進んでおり、企業側にはこうしたルールの知識に基づいて誠実に対話する姿勢が求められます。
気候変動対策は、多くの企業にとって「やったほうがいいこと」のレベルを超え「やらなくてはならないこと」になりつつあります。7月の日経リスクインサイトは特集テーマを「重み増す気候変動リスク」とし、企業の担当者がチェックしておくべき世界の関連ルールの解説や、この分野で影響力が大きい欧州当局の情報などをお届けします。
気候変動に関する情報開示に対して株主や消費者からの注目が高まっていますが、うわべだけを取り繕った欺瞞(ぎまん)的な取り組みは「グリーンウォッシュ」として批判されたり、訴訟の対象になったりすることもあります。企業絡みの環境関連訴訟の現状についても、専門家による解説記事を配信する予定です。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの調査によると、対企業の気候関連訴訟は2022年に世界で少なくとも39件と5年で2.2倍に増加しました。法律家による環境保護団体であるクライアントアースの「日本上陸」も合わせ、日本企業にとっても環境関連の訴訟に向けた意識を高める必要性が高まっています。
信頼を取り戻せない小林製薬
この編集長便りを書き始めたのは6月末ですが、「小林製薬の『紅麹』健康被害、死亡疑い新たに76人」のニュースが飛び込んできました。それまで同社は厚労省に死者数を5人と報告していました。ですが一方で、これとは別に76人の死因について、問題になった製品との因果関係を調査中であることが明らかになりました。
76人のうち、実際に「製品による死亡」と認められるのがどのくらいになるのかはわかりません。問題は小林製薬がこれまで、調査中のケースがこれほどの規模で存在することを対外的に明らかにしていなかったということです。消費者などに示していないだけでなく、厚労省にも報告していませんでした。武見敬三厚労相は6月28日に、緊急に記者会見を開き、今後の調査などについて「小林製薬だけに任せておくわけにはいかない。厚労省が直接進捗状況を管理し、調査結果を詳細に示す」と強い言葉で非難しました。
関係者の間では「まだ証券取引所が開いている午後3時前に厚労相が会見するのは異例。よほど小林製薬側の対応を腹に据えかねているのではないか」との観測が広がりました。会見前に5500円以上で推移していた同社の株価は取引時間の終了間際に急落。この日の終値は5223円となりました。小林製薬は株価だけでなく、厚労省からの信頼を大きく失ったともいえます。
日経リスクインサイトは4月に配信した「企業不正の研究」で小林製薬を取り上げました。この時の記事では「もともと『ガバナンスの優等生』とみられていた同社が、有事の初動対応で失敗し、傷口を広げた」と分析しましたが、どうやら同社はその後も対応を誤り続けているようです。ちなみに今回の「76人」の発表の際、同社は記者会見を開かず、リリースのみの対応で済ませました。
今後、「どうして信頼回復の取り組みがうまく進められないのか」という観点で、再分析を試みたいと考えています。追加取材中ですので、しばしお待ちください。
(2024年7月2日 植松正史 masafumi.uematsu@nex.nikkei.com)
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