(写真=オアシスティーラウンジ提供)

カフェの定番メニューと言えばコーヒー。しかし現在、コーヒーを取り扱わない、お茶専門カフェが勢いを増している。神奈川県の人気観光地、湘南エリアに4月6日、台湾カフェチェーン「春水堂(チュンスイタン) 藤沢湘南台店」(神奈川県藤沢市)がオープンした。同チェーンとして初となる、ドライブスルーを併設した郊外型店舗だ。

春水堂はオアシスティーラウンジ(東京・港)が展開するお茶専門カフェで、タピオカミルクティー発祥の店として2013年、日本に初上陸した。藤沢湘南台店を含めて国内で15店舗を展開する。タピオカブームが起こった19年前後に急速に売り上げを伸ばし、ピーク時の売上高は20億円に達したが、ブーム終息とともに集客が落ち、23年度の売上高は13億円だった。

春水堂に限らず、タピオカドリンクを主力商品としていたチェーン店は、新型コロナウイルスの流行も重なって尻すぼみとなった感が否めない。しかし、春水堂はタピオカの代わりにお茶を前面に打ち出し、客の心をもう一度つかもうと巻き返しを図っている。

タピオカ入りの注文は4割弱

タピオカブームだった18〜19年には客の約7割がタピオカ入りを注文していたが、23年12月には4割弱まで下がったという。つまり、タピオカの入っていないお茶の注文が増えていることを示している。オアシスティーラウンジの関谷有三代表は「タピオカ入りを何杯か飲んでいるうちに、お茶そのものがおいしいことに気づいてもらえている」と手応えを感じている。

春水堂ではタピオカ入りのドリンクを「タピオカティー」、タピオカが入っていないものを「アレンジティー」として販売する。タピオカの有無以外、基本的に違いはない。タピオカティーの方が50円ほど高く、例えば650円(税込み、以下同)の「タピオカ鉄観音ミルクティー」に対して、「鉄観音ミルクティー」は600円だ。

4月6日にオープンした「春水堂 藤沢湘南台店」
タピオカミルクティーは今も定番メニューの1つ

また競合が比較的少ないお茶専門カフェの強みを生かして、ドライブスルーの需要を積極的に開拓する考えだ。「コンビニやスーパーなどどこでも購入できるコーヒーは、わざわざドライブスルーで買いたくなるよう差別化するのが難しいと思う」(関谷氏)からだ。

実際、コーヒーチェーンの郊外出店は鈍化傾向にあるとの見方は多い。各社が出店を競って競争が激化しており、商品やサービスで違いを打ち出してもすぐにまねされる状況だ。コーヒーより競合が少ない、お茶やスイーツを前面に打ち出した業態の展開を狙う企業が増えているという。

「スシロー」が郊外出店を指南

藤沢湘南台店では来店客の約4割はドライブスルーを利用すると想定。客単価は700円程度を見込む。台湾麺などフードの注文も多い店内利用(1500円)に比べると客単価は下がるが、回転率を上げて売り上げを伸ばす考えだ。

春水堂として初めてドライブスルーを併設(写真:オアシスティーラウンジ提供)

郊外出店に弾みをつけるため協力を仰いだのが、郊外を中心に回転すしチェーン「スシロー」などを展開するFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)だ。F&LCは春水堂に出資して郊外型店舗開発をサポート。藤沢湘南台店の出店場所もF&LCの提案だった。

月間売り上げ目標は2000万円で、現在最も売り上げが高い「春水堂 渋谷マークシティ店」(東京・渋谷)の1500万円を大きく上回る予想だ。「このロードサイド業態は全国に100店舗くらい出せるんじゃないかと考えている」(関谷氏)と力を込める。

郊外型店舗で復活を狙う春水堂には今、別の追い風も吹いている。コーヒー豆の高騰だ。

コーヒーとの価格差縮小で勝機

帝国データバンクの調査によると、国内に多く流通しているアラビカ種の価格は、22年平均で1キロ700円を超え、300円台で推移したコロナ禍前に比べると約2倍に高騰した。原料高騰に対し、店頭価格への転嫁は追い付いていない状況で、コーヒー1杯当たりの価格は400円強とほとんど上がっていない。

食品卸の石光商事でコーヒー・茶類事業部部長を務める田原鈴代氏は「半年ほど前からコーヒー豆の価格は下がるといわれていたが、実際は高騰している。今後もどうなるかなんとも言えない」と話す。実際、コーヒー豆高騰はカフェの経営を圧迫しつつあり、帝国データバンクによると、カフェの倒産件数は23年に72件と調査開始以来最多を記録した。

コーヒーを扱わない春水堂などのお茶専門カフェは豆高騰とは無縁だ。春水堂は「今後、徐々にコーヒーの店頭価格が上がってくると、タピオカなしのアレンジティーと価格差がなくなってくる。そうなれば、コーヒーもお茶も好きな人がお茶を選ぶ傾向が強まることが予想される」と期待する。

国内150店舗(23年末)を展開するティーカフェチェーン最大手「貢茶(ゴンチャ)」も攻勢を強める。

4月25日から一部店舗を除き、コーヒーの販売を取りやめる予定だ。コーヒーをメニューからなくすことでお茶専門カフェとしてのイメージを強める狙いがある。

ゴンチャの来店客はほとんどが10〜30代以下の女性。1人で来店してゆったり過ごしたい客が多いコメダ珈琲などとは対照的に、「ゴンチャは2人以上で来店する割合が他チェーンと比較して最も高かった」とゴンチャジャパン(東京・港)でチーフマーケティングオフィサー(CMO)を務める坂下真実氏は話す。23年末ごろから、「おしゃべりOKではなく、おしゃべり歓迎」(坂下氏)というコンセプトで、来店頻度が月1回程度のライトな客層を広げる狙いだ。

複数で来店し、気楽におしゃべりできる店を目指す(写真:ゴンチャジャパン提供)

店舗数は24年中に現在の約1.3倍の200店舗、28年に400店舗の展開を目指す。売上高は23年実績が約120億円、24年目標は約140億円だ。

坂下氏はお茶専門カフェについて「まだまだ文化として根付いているとは言えない」と話すが、「サンマルクカフェ」などを展開するサンマルクホールディングス(HD)のカフェが約400店舗ということを考えると、ゴンチャが計画通り店舗を増やすことができれば、カフェチェーンとして一定の地位を確立したと言えそうだ。

(日経ビジネス 関ひらら)

[日経ビジネス電子版 2024年4月18日の記事を再構成]

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