欧州新路線の就航日を発表するANAの井上社長㊨(19日、東京都港区)

全日本空輸(ANA)は19日、欧州路線の強化戦略を発表した。ミラノ、ストックホルム、イスタンブールの3都市に12月から順次新規に就航する。日欧路線を現在の5つから9つに拡充し、座席提供数も2023年比で3割増やす。歴史的な円安下で日本人の出国数は回復が鈍い。欧州市場そのものは伸び悩むが、中東やアフリカ方面の「ゲートウェー」として、あえて欧州に根を広げる。

「各国独自の産業や文化などがある欧州は、万華鏡の様なきらめきがある」。ANAの井上慎一社長は19日の記者会見で欧州市場をこう表現した。

ANAは欧州路線の強化に動いている。7月1日から羽田ー独ミュンヘン、羽田ーパリの両路線を週3便から毎日運航に増便し、8月1日からは羽田ーウィーン線を4年ぶりに再開する。

新規路線となる羽田ーミラノは12月3日、羽田ーストックホルムは25年1月31日、羽田ーイスタンブールは2月12日にそれぞれ初便が飛ぶ。ミラノとイスタンブールはANAとして初めてで、ストックホルムは日本の航空会社として初の就航先になる。

一連の強化策によって「ANAは日欧を結ぶ最大の便数を誇るエアライン」(井上社長)の立場を固める。日欧間を結ぶ月間運航便数(24年12月時点)ではANAが217便で首位となる。2位の日本航空(JAL)より4割ほど多く、3位の独ルフトハンザの倍以上の便数だ。

欧州航空市場の規模は大きい。国際航空運送協会(IATA)によれば23年の地域別旅客数のシェアで26%と、アジア太平洋(34.1%)に次ぐ2位だった。

一方で市場成長率は低く、23年から43年までの年平均成長率(CAGR)は2.3%と世界平均(3.8%)を下回り全地域でも最低だ。新型コロナウイルス禍からの回復ペースも遅い。24年3月の乗客を実際に運んだ規模を示す「有償旅客キロ(RPK)」で、欧州は19年3月比を0.3%下回ったままだった。

それでもANAが欧州路線を強化する意味は何か。同社は欧州を軸とした乗り継ぎ便ネットワークを重視する。既に提携先の航空会社との共同運航便で34カ国の76地点まで飛べる。今後は中東やアフリカにもエリアを拡大する方針で、井上社長は「欧州だけでなく、中東やアフリカに行く場合もANAを選んでほしい」と語る。

人口減少などの影響で国内線の成長が見込みにくいなか、ANAにとっての国際線の重みは増している。ANAホールディングスの24年3月期連結決算では国際線の旅客収入が7281億円となり、国内線(6449億円)を初めて上回った。

歴史的な円安で日本人の海外出国は戻りが鈍い。日本政府観光局は19日、6月の日本人出国者数が前年比32%増の約93万人だったと発表した。回復はしているもののコロナ前の19年からは39%減っており「円安が新型コロナで冷え切った出国マインドを解け出させるのを遅らせている」(井上社長)。

26日にはパリ五輪も開幕し、欧州への関心が高まる好機だ。欧州強化を、中長期での需要開拓に結びつけられるかが試されている。

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