日経ビジネスはクラウド会計ソフトなどを手掛けるマネーフォワードの協力を得て、同社の家計簿アプリを使うパワーファミリーとその予備軍の計4世帯に取材した。職業や居住形態、世帯年収はもちろん、毎月の支出の内訳や消費傾向を詳細に聞き取った。

世帯年収や子供の有無などで違いはあるものの、共通するのは、ぜいたくし過ぎず堅実な姿勢。4世帯とも月収の4割前後を貯金・投資に回し、将来に備えている。

まず最初に紹介するのが東京都の西村家だ。夫婦は30〜40代の共働きで世帯年収1800万円、子供が3人という典型的なパワーファミリーだ。

妻は取材時に金融業に勤めていたが4月末に転職した。「子供が大きくなり、もっと給料が高いところへ行きたいと思い、転職を決意した。育休などを5年間取ったため、前職では昇給が難しかった」と語る。夫も年収アップし、世帯年収は近々2000万円になる見込みだ。

西村家は学資保険に月10万円、習い事に月10万円をそれぞれ支払い、子供関連の固定費が月の支出の2割を占める。習い事は水泳と塾。塾はオンラインにして送り迎えなどの負担を軽減している。節約志向は強く、自動車は利払いを嫌い、中古の「フリード」を現金一括払いで購入した。

資産運用では投資信託、外貨預金などに幅広く投資している。NISA(少額投資非課税制度)も利用している。生活費の残りも投資に回し、預貯金はあまりしない。

食洗機など便利家電をそろえた

次に紹介するのが、夫婦ともに外資系企業に勤める千葉県の阪本家だ。世帯年収は2200万円と登場する4世帯で最も多い。夫婦の月収も110万円と高額だが、そのうち39%は貯金・投資に回している。最近は自動車「ランドローバー」を購入し、旅行や記念日の食事にもお金をかけるが、ぜいたく三昧というわけではない。

旅行は帰省を含めて年3〜4回ほど。以前は旅先でアクティブに色々としようとしていたが、30代になってからはリゾートでゆったり過ごすことを好むようになったという。

夫婦ともに多忙なため、平日の家事を効率化できるモノやサービスには積極的にお金を使う。食洗機や自動調理鍋「ホットクック」などの便利家電(時短家電)は一通りそろえた。料理が苦手と言い、平日に素材が届くミールキットを活用する。家事代行で1週間分の作り置きをお願いすることもある。

家事代行は、以前まで月2回くらい使っていたが、最近は月1回使うかどうか。ただ「使わなくなった分、外食が増えた気がする」という。

子供はまだ2歳と幼く、習い事はしていない。ただ将来の教育資金として月8万円を投資・貯金している。

投資に積極的なパワーファミリーが多い中、兵庫県の久保家は預貯金のみだ。過去に投資で200万円損した経験があるという。

子供は5歳で、来年から小学生。子供が生まれてから貯金を増やし、食費を節約するようになったという。出産前は総菜を購入したり外食したりすることが多く、食費に月8万円くらいかけていた。

普段はあまり外出せず、服などにはお金をかけない倹約派。昨年、スズキの中古自動車を100万円くらいで購入した。一方、帰省や海外旅行では気にせずお金を使う。

手元にあると使うので天引きで貯金

最後に登場する千葉県の田中家も、旅行にお金を惜しまないタイプだ。夫婦ともに20代後半と若く、子供もいないことから、月1〜2回は旅行に出かける。

旅先ではホテルや食事よりも、豪華列車に乗ることにお金をかけ、移動時間を楽しむ。旅先の歴史を学べるアクティビティーなどに参加することも重視しているという。また、衣服やアクセサリーはいいものを長く使いたいため、お金をかける。

田中家がユニークなのは、夫婦の共同口座をつくり、家計簿アプリで共同管理している点だ。残りの収入は各自で管理しているという。現在は社宅に住んでおり「家賃はただ同然」。世帯年収は1300万〜1500万円と恵まれており、「手元にお金があると使ってしまうため、天引きで貯金に回している」と話す。

ニッセイ基礎研究所の久我尚子・上席研究員に聞く


実は最先端、時短家電は最上位モデルを購入
消費者行動を専門とする。2001年、NTTドコモに入社。10年、ニッセイ基礎研究所の生活研究部門に入所。21年から現職(写真=ニッセイ基礎研究所提供)
パワーファミリーが台頭した背景には、共働き世帯の増加が強く影響している。理想的な家族に対する価値観も変わり、近年は「共働きの方が豊かな生活を送れる」との考えが、特に若年層を中心に広まった。女性のキャリア形成意識が醸成され、男性も自分の稼ぎだけでなく女性の収入も当てにするようになっている。

購買力が高いパワーファミリーは、比較的高額な消費にも積極的。ただ、バブル世代のように高額品を好んで買うような層でもない。衣料品が典型だ。高級ブランドに対する関心は高いが、同時にファストファッションにも抵抗はない。だから「ZARA」や「ユニクロ」などを賢く活用している。

そもそも、今の日本は低価格かつ高品質なモノが既にそろっているから、日常生活の出費はかなり抑えられる。シェアリングエコノミーの普及を背景に、あらゆるモノを所有する必要もなくなった。その分、旅行などの非日常的な消費や教育にはお金をかける。

資産価値に対する意識も高く、将来値上がりしそうなものを見極めようとする。当然、資産運用にも積極的だ。IT(情報技術)に対するリテラシーがあるから、アプリを使いこなし自ら運用する人は少なくない。

パワーファミリーの割合はまだ全体としては小さい。ただ共働きは今後も増えるだろう。夫婦それぞれが年収700万円以上を稼ぐハードルは高いかもしれないが、予備軍とも言える世帯まで含めれば、その総数は着実に増えていくだろう。

最近はパワーファミリーに関する企業からの問い合わせが増えた。彼らは増加する共働き世帯の中でも消費の最先端を走る。例えば、乾燥機付き洗濯機などの「時短家電」にしても、最も高い価格帯のモデルを買っていく。だから現状ではニッチなマーケットだとしても、企業としては見落とせない。目配りを怠らないことが重要だ。(談)

(日経ビジネス 藤原明穂、飯山 辰之介)

[日経ビジネス電子版 2024年5月9日の記事を再構成]

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