米医療ソフトウエアのベラダイムは医療文書を構造化データに転換する独自の大規模言語モデル(LLM)を開発している米サイエンスIOを買収した=サイエンスIOのサイトから
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

医療テックのユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の米コミュア(Commure)は7月、AIを活用して診察時の医師と患者の会話から医療文書を作成する米オーグメディクス(Augmedix)を1億3900万ドルで買収すると発表した。

コミュアは2023年10月にも、AIを活用して医療業務を効率化する米アセラス(Athelas)を買収した。アセラスは収益サイクル管理(RCM)と書類の自動作成サービスを提供しており、コミュアは今回のオーグメディクスの買収でAI機能をさらに強化した。

この2つの取引は、医療・ヘルスケア部門のAI企業買収ブームを反映している。

実際、24年1〜7月のデジタルヘルス分野のM&Aのうち、AIプラットフォームは49%を占めた。医療提供者向けの業務効率化システム、臨床試験(治験)、女性の健康などの分野に及んでいる。

AIプラットフォーム、デジタルヘルスM&Aの半数近く占める(24年1〜7月のデジタルヘルスのM&A活動)

AIスタートアップは業務効率を劇的に改善する可能性があるため、医療・ヘルスケア企業にとって魅力的な買収対象になっている。医療業務は旧態依然としており、手作業が多い。

デジタルヘルス分野のAI企業の買収で24年に勢いを増している3つの主な分野は、以下の通りだ。

・医療文書の作成

・治験

・リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)と妊産婦の健康

以下ではこの3つの分野を掘り下げ、最近買収されたAI企業を紹介する。

注:今回の分析ではデジタルヘルス企業の出資比率引き上げによる買収も対象に含めた。未完了の買収と未上場企業のエグジット(資金回収)は除いた。

医療文書の作成

医療・ヘルスケア部門は生成AIと大規模言語モデル(LLM)機能の強化を戦略的に重視している。各社は医療提供者や保険会社の事務や臨床の業務の効率化を目指し、LLMの専門知識を持つAIスタートアップを重要な買収対象にしている。

米フェアウェイヘルス(Fairway Health):米ターニングポイント・ヘルスケア・ソリューションズ(TurningPoint Healthcare Solutions)が5月に買収

・フェアウェイヘルスはLLMと生成AIツールを使って診療記録を分析し、医療サービスを受ける前に保険会社から承認を得る。

・複雑な疾患のケア管理システムを手掛けるターニングポイントは、フェアウェイのAI技術を医療ネットワーク全体に展開する方針だ。

米サイエンスIO(Science IO):米医療ソフトウエアのベラダイムが2月に買収

・バリュエーション(企業価値評価):1億8400万ドル

・サイエンスIOは医療提供者や保険会社向けに医療文書を構造化データに転換する独自のLLMを開発している。

・CBインサイツのリポートによると、匿名化された医療データの製薬会社への提供が、買収後の新たな収益源になる可能性が高い。

出所:CBインサイツのサイエンスIOのリポート

治験

治験は医薬品の研究開発の大きなボトルネックになっている。業界の既存各社は、技術革新は進んでいないが重要なこのプロセスを効率化するため、AI企業に目を向けている。患者の治験をリアルタイムで捉えるリモート技術の利用拡大がこの活動を推進している。

英アパリート(Aparito):米製薬大手イーライ・リリーが7月に買収

・アパリートはリモートで実施できる分散型治験向けに、電子媒体を活用した臨床アウトカム評価(eCOA)プラットフォームを開発している。

・商業的な成熟度は5点中4点

米ヒューマンファースト(HumanFirst):臨床研究機関のアイコン(アイルランド)が2月に買収

・ヒューマンファーストはAIを活用したバイオマーカーや臨床アウトカム評価(COA)など、デジタル測定ツール群を提供している。

・製薬大手トップ25社のうち24社が同社の製品を使っているという。

米プロフィシェンシー(Pro-ficiency):製薬やバイオ技術向けシミュレーションソフトを手掛ける米シミュレーション・プラスが6月に買収

・バリュエーション:1億ドル

・プロフィシェンシーは治験の成果を最適化するため、AIシミュレーションを提供している。

・商業的な成熟度は4点

リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)と妊産婦の健康

女性の健康にまつわるAIソリューションは製薬会社から医療診断会社まで業界全体から注目されている。このトレンドは業界の既存各社や投資家も女性の健康に対する正確で個別化されたアプローチへの関心を深めていることを示している。

英オーラ(Aura):英IBSAファーマUKが1月に買収

・オーラは体外受精の患者を対象に、AIを搭載した心理社会的支援プラットフォームを提供している。

・不妊治療を受けている患者の心身をサポートする総合型のアプローチを重視している。

エンブリオニクス(Embryonics、イスラエル):シンガポールのレア(Rhea)が1月に買収

・エンブリオニクスは体外受精の成功率を高めるため、AIを搭載した体外受精ソフトウエアを開発している。

・リプロダクティブ・ヘルス・サービスを提供するレアはこの買収後の5月、診療所をさらに買収し、新たな市場に参入するためにシリーズAで1000万ドルを調達した。

出所:CBインサイツ

仏ソニオ(Sonio):韓国のサムスン・メディソンが5月に買収

・バリュエーション:9300万ドル

・ソニオは胎児超音波検査用のAIソフトを手掛ける。

・商業化の成熟度は4点

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