ディスカウント店「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は16日、2024年6月期連結決算を発表した。純利益が最高益を更新し、25年6月期は東証2部上場前を含めて36期連続の増収増益(営業ベース)となる見通しだ。店が運営権限を持つ「個店経営」により総合スーパー(GMS)を再生したのが原動力だ。

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2兆円超え、日本小売業5社目

24年6月期の純利益は前の期比34%増の887億円。売上高は8%増の2兆950億円だった。2兆円の大台を超えたのはセブン&アイ・ホールディングス(HD)、イオン、ファーストリテイリング、ヤマダHDに次いで日本小売業で5社目だ。

営業利益は33%増の1401億円と過去最高となり、5年間で2倍超になった。25年6月期までの中期経営計画の目標(1200億円)を1年前倒しで達成した。ドン・キホーテのディスカウント事業が1.5倍の860億円とけん引した。

「日本の小売り総販売額のうち、当社のシェアはわずか1.5%にも満たない。我々はこのレベルに安住する気持ちは毛頭ない」。同日、9年ぶりに決算説明会に登壇した安田隆夫創業会長兼最高顧問は、自身の持ち味でもある挑戦する姿勢を強調した。

成長の原動力は、小売業の常識の裏をかく個店経営と呼ばれる手法だ。ドンキでは、商品調達や値段決定、商品の配置などをパート・アルバイトが主導する。現場の人に権限を与えて顧客からの要望も即反映させる。流行に合った商品を適時にそろえ、在庫を効率的に回すモデルを作り上げた。商品構成が同じ店は一つとしてない。

3月に開いた「MEGAドン・キホーテ成増店」(東京・板橋)。店頭で目を引くのが資本業務提携するカネ美食品が作る総菜やスーパーと同様の生鮮食品だ。駅近立地で、日常使いの顧客から通勤・通学客まで幅広くつかむ。年齢層も多様だ。

「だけ」弁当、他社やらずヒット

「フライドチキンの皮だけ弁当」はその名の通りフライドチキンの皮とコメだけの弁当だ

若者などに「刺さる」商品づくりも定評がある。発売3カ月で約6万食の販売と店頭で爆発的なヒットを飛ばしているのが、フライドチキンの皮とコメだけで構成するその名も「フライドチキンの皮だけ弁当」(538円)だ。ひねりも何もない商品名は一周回って新鮮にも見える。

開発を担当した梶間慧マーチャンダイザーは「『万人受け』を狙うのではなく、ドンキでないと作れない商品だ」と話した。他のスーパーやコンビニの範囲外の土俵づくりでファンを獲得する。

直近の急成長は不採算だったGMSのユニーを立て直した影響が大きい。GMS事業の営業利益は22%増の342億円と19年2月期と比べて6割伸びた。

利益率、イオン・ヨーカ堂上回る

完全子会社後、約1万9千人のパート・アルバイト従業員にドンキ流の個店経営を移植。仕入れなどの責任を現場に持たせるといった策でコスト管理を徹底した。

GMSの営業利益率は7.4%。イオンのGMS事業(0.8%、24年2月期)やイトーヨーカ堂(0.06%、23年2月期)を大きく上回る。今後は食品のほか、衣料品や日用品販売を伸ばすため、ドンキから非食品の販売ノウハウを持つ幹部を派遣する方針だ。

25年6月期の連結決算は売上高が前期比6%増の2兆2200億円、営業利益は7%増の1500億円を見込む。純利益は前期が円安の影響で上振れした反動で2%減の865億円となる見通し。

免税売上高、百貨店超え

今後の成長に向けては「海外」がキーワードになる。1つ目は、実は百貨店以上に恩恵を受けているインバウンド(訪日外国人)客だ。

PPIHの免税売上高は3倍の1173億円(24年6月期)と、百貨店国内最大手の三越伊勢丹HD(24年3月期、1088億円)を超えた。かつては中国人客が中心だったが、他のアジアや米国などからと裾野が広がった。国内外の食品から衣料、雑貨まで1カ所でそろう利便性のほか、創業時から強みとする深夜営業で特にナイトマーケット需要の受け皿となった。

海外店は踊り場

PPIHはディスカウント店を海外でも広げる(5月、米国の店舗)

2つ目が海外店だ。雑多な雰囲気や競合のスーパーなどと比べて割安に日本商品を手に入れられることが受けて、アジアを中心に一定の顧客層をつかんだが足元は踊り場だ。世界的な物価高で安さの競争が激しく、24年6月期はアジアの不採算店の閉鎖を進め、減損損失などで190億円の特別損失を計上した。中長期では出店を拡大する意向だ。

売上高の8割以上を稼ぐ国内事業に向きがちな社員の意識を変えるため、昇格条件に海外赴任や海外事業経験を追加することを検討する。エース社員を海外に派遣し個店経営を深める体制も構築する。

PPIHは30年6月期をめどに、海外事業で営業利益を現状から3倍程度にすることを目指す。JPモルガン証券の村田大郎シニアアナリストは「海外と日本では労働に対する倫理観が日本と違う」と指摘。ドンキ流の海外移植は難路との見方を示す。同期に全社では2000億円の営業利益目標を掲げる。海外の基盤を確立できれば達成に近づく。

(平岡大輝、浅山亮)

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