米国ではトヨタの「RAV4」㊤やホンダの「シビック」などが人気

米国で新車販売にかかる奨励金(インセンティブ)が増え、自動車各社の連結業績の重荷になってきた。市場の需給緩和が背景にある。独自試算では米奨励金が2025年3月期にトヨタ自動車をはじめ日系6社の営業利益の合計で前年同期比7000億円規模の減益要因になる可能性がある。各社は商品戦略の巧拙が稼ぐ力を一層左右する。

米調査会社コックス・オートモーティブによると、24年4〜6月期の1台あたり奨励金は業界平均で3100ドル強と前年同期比で約65%増えた。

奨励金はメーカーがディーラーに支払う販促費の役割がある。販売店は車の値引きやローン金利を優遇する際の原資とする。追加装備やサービスの割引に使うこともある。販促費の範囲は各メーカーと調査会社の間で異なる場合もあるが、増減の方向感は一致する。

1台あたりの奨励金は新型コロナウイルス禍で新車が供給不足となったことで21年後半から23年前半にかけて歴史的な低水準となった。その後、供給が回復し、23年半ばから急ピッチな増加局面を迎えた。コロナ禍直前の業界平均は1台約4000ドルだったことを踏まえるとまだ上昇余地がある。一方で各社は在庫を抑える方針を強調しており、上げ止まる可能性もある。

コックスのデータをもとに、米国における奨励金のコストが各社の今期営業利益をどれだけ押し下げるかを日本経済新聞が独自試算した。

減益額は奨励金が24年4〜6月期と残りの3四半期も同額になると仮定し、前年同期と比べて算出した。会社発表の世界予想とも比べた。試算時に必要な米販売台数は各社や調査会社マークラインズのデータをもとにした。前提となる為替レートは24年4〜6月期までは期中平均値、残りの3四半期は1ドル=150円とした。

厳しいのが日産自動車だ。試算では今期の減益額が1740億円になる。4〜6月の1台あたりの奨励金は3500ドルと6社で最も高い。旧型車の売り切りを目的に奨励金がかさんだため、同期間の営業利益は9億円と99%減った。新型車の相次ぐ投入で今後は抑えていくというが、実績が悪かっただけに不透明感が残る。

トヨタの米国の販売店

トヨタは減益額が2100億円弱で収まり、会社予想による世界での奨励金の減益額(5000億円規模)を大きく下回る。奨励金は1台1500ドル弱と業界平均の半分以下にとどまる。需要が多い新型モデルやハイブリッド車(HV)の販売割合が大きいためだ。山本正裕経理本部長は「商品力は顧客に認めていただいている」と話す。

ホンダも奨励金を1台2200ドルほどに抑える。減益額の試算は1600億円弱と、会社予想(世界で1700億円)と比べ大きな差が出ない水準に収まった。藤村英司取締役はHVの奨励金がガソリン車に対して「半分から半分以下」と明かす。HVの世界販売は前期の86万台から今期は100万台に増やす計画だ。

マツダは大型車の投入で米国シェアの拡大を狙うため、奨励金自体は1台2650ドルと比較的大きい。ただ会社予想では減益額も1020億円と多く見積もる。藤本哲也専務執行役員は「7〜9月期をピークに抑制していく」と話す。

SUBARU(スバル)は現地でのブランド力の高さもあり、1台あたりの奨励金は2000ドル程度とトヨタに次ぎ少ない。ただ試算による減益額は930億円と、会社予想の352億円を大きく上回った。

会社側が通期の前提を1台1600ドル、為替レートを1ドル=142円と円高にみる点が主な理由だ。水間克之取締役は主力車種「フォレスター」のモデル切り替えにより、4〜6月期の奨励金は「想定より少し多かった」と話す。7月以降の金額抑制や輸出面での円安効果などで補えるかが注目点になる。

三菱自動車は主戦場が東南アジアのため、奨励金の米国での割合は他社よりも少ないとみられる。

試算による6社の減益額は計7200億円で、全社の利益の1割に当たる。SBI証券の遠藤功治氏は需給が緩んだ分、今後の奨励金について「商品力や技術力で差がつきやすくなる」と指摘する。競争が激化するなか各社の底力が試されている。

(野口和弘)

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