現在、「きゅういち」の冷凍倉庫で出荷を控える冷凍ホタテ。倉庫内は通常の状態に戻ったという=北海道函館市で2024年8月19日、三沢邦彦撮影

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に伴う中国による日本産水産物の禁輸措置が始まり、24日で1年が過ぎた。中国が主な輸出先だった北海道内産ホタテは行き場を失い、冷凍庫に山積みになった。水産加工業者はこの一年で、国内の一般販売に向けて設備投資を進めたほか、中国に頼らない新たな販路拡大を模索している。【三沢邦彦、本多竹志】

 函館市の水産加工会社「きゅういち」(藪ノ賢次社長)は、中国の禁輸措置によるホタテの在庫増を受け、23年9月4日に中国向けホタテを国内の消費者向けに販売するインターネットサイトをいち早く開設した。

 きゅういちの主力事業はホタテ加工。中国向け製品の売り上げは取扱量全体の4分の1を占めていた。1年前は冷凍庫に出荷のめどが立たないホタテが数十トンもストックされていた。だが、その後、販売サイトを始め、国内の飲食店やホテル、チェーン店に販路を拡大。冷凍ホタテの国内販売は順調に進み、在庫は減少した。担当者は「冷凍庫は通常の状態に戻っている」と話す。

 国内の販路拡大に向け、経済産業省による中国禁輸措置の補助金も活用。今年2月に魚介類を冷凍するトンネルフリーザーを更新したほか、7月にホタテの貝柱をサイズごとに分ける選別機を導入した。中国向けなどは無選別での販売だったが、飲食店から「選別をしてもらえたらもっと仕入れられる」との声に応え、近く本格稼働する。

 函館税関が21日に発表した7月の道内貿易概況によると、ホタテが大半を占める「甲殻類・軟体動物」の輸出は中国向けが昨年9月から11カ月連続で「ゼロ」となっている。今年1~7月の道内からのホタテの輸出額は、前年同期比46%減の163億5600万円と禁輸措置の影響が続いている。

北海道函館市の加工場に設備投資したホタテの選別機=きゅういち提供

 一方、7月に道内から輸出したホタテの数量は前年同月比306トン増の6186トン(約29億9500万円)と回復傾向にある。輸出先をみると、ホタテの加工場が増えているベトナムが約10億9300万円(3512トン)▽米国が約5億7100万円(189トン)▽タイが約3億6000万円(1262トン)--など。中国以外への販路拡大がみられる。

 きゅういちは、米国で食品・飲料・化粧品などを輸出販売する際に必要な米国食品医薬品局(FDA)認証の更新や東南アジアへの輸出も検討を進めている。担当者は「販売サイトの強化や飲食店向けのマーケティングを強化し、自分たちで新たな販路拡大をしていきたい」と話す。

輸出安定不可欠 早期解除を

 オホーツク海のホタテ主力産地の湧別漁協は今年、3万6000トンの水揚げを目標に12月まで出荷を続ける。中国による禁輸措置が始まった昨年も平年比で水揚げ量に大きな変化はなかったという。当初は処理水海洋放出後の価格の下落を不安視する漁業者が多かったものの、「道漁連が踏ん張り、影響は最小限にとどまったのでないか」とみる。

 担当者は「国内の消費拡大という形で応援してもらったことが大きかった」と言う。東南アジアや米国、カナダへと販路が広がったことで、輸出も回復傾向に推移している。湧別漁業は人手不足対策も含め、自動殻むき機を導入した加工場を新設。主力商品であるホタテの安定生産に努めている。ただし、「やはり輸出の安定化が不可欠。引き続き中国による禁輸措置の早期解除を求めていく必要がある」と話した。

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