「アコー」というフランスのホテル会社をご存じだろうか。高級ホテルからエコノミークラスのホテルまで45以上のブランドを持ち、世界110カ国以上で5500軒以上の施設を展開している巨大ホテルチェーンだ。日本でも高級ホテル「ノボテル」や、ビジネスホテル「イビス」などを運営するが、会社の認知度はいまひとつだ。
そんなアコーグループが2024年4月1日、リゾートホテル「グランドメルキュール」と「メルキュール」合わせて22軒を国内で一斉開業した。日本初上陸のグランドメルキュールは、世界で12カ国、約60の拠点を有する高級ブランドで、メルキュールは60カ国以上、900を超える拠点を持つブランドだ。
これら新規開業したホテルは、旧大和リゾート(現デスティネーション・リゾーツ&ホテルズ・マネジメント=東京・港)所有の施設を改装したもので、リブランドの形を取る。これらを合わせると、運営数は国内で46軒となり、それまでの運営数と比較すると2倍近くに増えた。
23年5月に新型コロナウイルス禍に伴う行動制限が解除されて以降、インバウンド(訪日外国人)が急回復しており、国内でホテルの開業ラッシュが止まらない。
米ホテル大手ヒルトンは5月1日、「ダブルツリーbyヒルトン大阪城」(大阪市)を開業。東京都内では5月30日、三菱地所グループの三菱地所ホテルズ&リゾーツ(旧ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ、東京・千代田)が「ザ ロイヤルパークホテル 銀座6丁目」(東京・中央)を開業予定だ。
これに対し、アコーがリブランドオープンしたホテルは、「グランドメルキュール奈良橿原」(奈良県橿原市)のほか「グランドメルキュール浜名湖リゾート&スパ」(浜松市)、「グランドメルキュール八ヶ岳リゾート&スパ」(山梨県北杜市)など、インバウンドが訪れるにはアクセスが良くない立地ばかり。例えばグランドメルキュール奈良橿原に向かうためには、関西国際空港に到着後、南海電気鉄道やJRなどを使って1時間半ほど移動する必要がある。
「はなれ旅」で地方の魅力発信
地方のホテルは一見すると集客面で不利になりそうだが、アコーグループで中近東・アフリカ・アジア担当営業責任者を務めるケリー・ヒーリー氏は「(インバウンドの間で)都心でなく、地方の訪れたことのない場所を探したいニーズが高まっている」と、新たにオープンしたホテルへの期待を語る。
アコーグループが打ち出したのは、「はなれ旅」というコンセプトだ。地方のホテルにインバウンドを呼び込むことによって、都市などの人気観光地に人が密集するオーバーツーリズム(観光公害)を解消したい狙いもあるという。例えば、グランドメルキュール浜名湖リゾート&スパでは、無人島いかり瀬を巡るカヤック冒険体験(大人1人8800円)、「グランドメルキュール南房総リゾート&スパ」(千葉県南房総市)では日本の自然を感じながら森を散歩する、癒しの森セラピーウオーキング(1人4180円)に参加できる。
カヤック体験では河川をカヤックで旅した経験を持つスタッフが、ウオーキングではセラピーウォークの資格を持ったスタッフがそれぞれ専任でツアーを担当する。彼らは「結びビト」と呼ばれ、ツアー体験価値向上の一翼を担う。
サッカー観戦などの特典で会員獲得
アコーグループのホテルの集客を支えているのが、現在110カ国で利用されているロイヤルティープログラム「ALL‐Accor Live Limitless(ALL)」だ。19年にサービスを開始し、会員にはホテルなど施設利用に応じてポイントがたまり、さまざまな特典として還元できる。特典は音楽、スポーツ、食を3本の柱として各事業会社と連携。サッカー、ラグビーなどのスポーツ観戦や、オペラ鑑賞が特に人気だという。
ALLの会員数は非公表だが、世界で会員が最も多いのがオーストラリアと見られる。同国では「5人に1人が会員」(ヒーリー氏)と言い、単純計算で520万人以上となる。ALLの会員であることがアコーグループのホテルを利用する大きなきっかけになっており、23年12月に開業した「メルキュール東京日比谷」(東京・千代田)では、開業初日から宿泊客の約4割がALLの会員だったという。4月に一斉開業した地方のホテルも、こうしたALL会員のインバウンドが宿泊客の中核となる可能性がある。
一方、国内での認知度向上に向けた手も打つ。24年4月、ポイントの相互交換で楽天グループとの連携を発表した。
6月からALLのリワードポイント2000ポイントにつき、楽天ポイント1600ポイントに交換される。9月以降は楽天ポイントからALLのリワードポイントへの交換も可能になるという。「日本の宿泊客はポイントが大好き」(ヒーリー氏)と、今後の会員数増加に期待を込める。
もっとも、楽天ポイントとの連携は「東急ホテルズ」など他の施設でも実施済み。これだけで他のホテルチェーンと差別化を図るのは難しい。国内でのALL会員獲得に向け、今後どのような施策を展開していくかに注目だ。
(日経ビジネス 関ひらら)
[日経ビジネス電子版 2024年5月1日の記事を再構成]
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