学研ホールディングス(HD)は4日、2030年までに海外の学研教室の会員数を40万人規模に増やす目標を明らかにした。実現すれば国内の会員数超えも視野に入る。学研が強みとする科学分野の知見を生かした科学実験など教科を広げ、経済成長と人口増加の続く東南アジアを中心に需要を開拓する。国内は少子化で成長が難しいなか、海外を新たな柱の事業に育てる。

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「学研の日本での戦後以来の成長の軌跡を再現できるのではないか」。海外事業担当の百田顕児取締役は4日のグローバル事業の戦略方針説明会で強調した。

ベトナム、世帯収入の2〜3割を教育に

けん引役と期待するのが東南アジアだ。伝統的に公的教育機関の存在感が大きいが、経済成長に伴い塾など校外での学習需要が拡大している。ベトナムでは世帯収入の2〜3割程度を教育に使うとされるなど、教育熱が高まっている。

9月にシンガポール、25年9月期にカンボジア、ブルネイなどに新たに教室を設ける。学研HDはマレーシアで学研教室を展開する現地法人を約2億5000万円増資し、現地の教育事業などに精通したスタッフを新たに4人採用した。各国の教育当局や事業者との関係構築を担い、学研教室のフランチャイズ(FC)で展開するパートナーも探す。

海外の学研教室は算数を中心に日本の教材を現地語に翻訳し、現地で採用した先生が教える。8月時点でマレーシアやベトナム、ミャンマーなど7カ国で100教室を展開する。現地の富裕層の子どもを中心に約3500人の会員がいる。月謝は国により異なるが、マレーシアは平均で1万円、シンガポールは3万円だ。

これを30年までに35カ国・地域に広げ、会員数を40万人規模へと一気に増やす強気の計画だ。東南アジア以外では香港やマカオ、台湾、米国、カナダ、ブラジルなどへ進出する。

科学などSTEAM教育に重点

科学雑誌で培ってきた科学系のコンテンツを生かすなどして、学研教室を科学や技術、数学といった「STEAM教育」を学べるブランドとして売り込む。各国で考える力を重視する教育方針が打ち出されており、STEAMが注目されている。宮原博昭社長は「想像力を培う教育が求められる中で学研の教材はぴったりだ」と期待感を示した。

同社の24年9月期の連結売上高は前期比13%増の1850億円を見込む。売上高の半分程度を占める介護などの医療福祉分野の拡大で近年は増収基調にあるが、教育分野には少子化が影を落とす。

国内では1980年に事業を開始した学研教室も例外ではない。「読み・書き・計算」といった基礎学力を伸ばすコンセプトで成長してきたが、少子化で事業環境は厳しい。会員数は23年9月期に約36万人と19年9月期に比べ17%減った。

宮原社長が就任した10年前後から教育事業の海外展開を模索するものの、実を結んでいない。科学実験教室は現地ニーズを捉えきれず、インドやタイでは撤退した。

自前主義から脱却、教育系企業などと連携

再挑戦のカギを握るのは自前主義からの脱却だ。学研HDは教育分野などでの政府開発援助(ODA)案件を手掛けるアイ・シー・ネット(さいたま市)を19年に買収した。同社の各国政府などとのパイプや知見も踏まえて海外戦略を練り直している。

現地の教育系企業や出版社、消費者の動向に通じたIT(情報技術)企業やマーケティング企業などと組んで、現地にあった内容にしていく想定だ。30年に海外売上高比率を現在の10%未満から30%に高める。

海外展開で先行する公文教育研究会(大阪市)は、学習効果に着目した現地事業者から要望を受ける形で進出を進めてきた経緯がある。公文式教室は3月時点で62カ国・地域で展開する。海外の学習者数は日本の132万人を上回る223万人で、学研は水をあけられている。

学研HDの海外での急拡大戦略は、人手確保など課題も多い。サービスの質を維持できなければ顧客離れを招きかねない。

野村証券の繁村京一郎氏は「自前だけでは広がりに欠ける。カリキュラムの現地化を進めるためにも教育当局と組むなどパートナー探しが重要」と指摘する。

(桜井貴文)

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