米大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツが人工知能(AI)スタートアップへの投資に力を注いでいる
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米大手VCのアンドリーセン・ホロウィッツがAI投資に力を注いでいる。

2024年に入り、既存の市場を破壊し得る分野で活動するAIスタートアップ20社以上に出資している。例えば、医療や金融など大規模な業界の主な作業を自動化するよう設計されたAIコパイロットやAIエージェントを手掛ける企業数社に出資したほか、画像や動画、音声など多様なコンテンツの作成を円滑化するマルチメディア生成AIスタートアップにも注目している。

同社はAIの進化を推進する一方で、それに伴うリスクも認識している。創業者らはオープンソースモデルを支持し、その透明性とアクセスしやすさがAIの安全で倫理的な開発を支えると主張している。同社が24年に参加したAI企業の大型ラウンド上位2件は、いずれもオープンソースの大規模言語モデル(LLM)を開発する米エックスAI(xAI)と仏ミストラルAI(Mistral AI)によるものだった。

今回のリポートではアンドリーセン・ホロウィッツによる24年1月1日〜8月19日のAI投資から、同社が戦略的に優先している5つのテクノロジーを特定した。この5つの戦略投資分野に基づき、企業を分類した。

・エージェント&コパイロット

・マルチメディア生成

・基盤モデル

・自動運転車

・診断&治療

アンドリーセン・ホロウィッツの24年の主なAI投資テーマ(24年8月19日時点)

ポイント

1)アンドリーセン・ホロウィッツが24年に最優先投資しているのは、AIを搭載したエージェントとコパイロットだ。AIコパイロットは人間と協働して作業のスピードアップを支援する。一方、AIエージェントは人間が指示しなくても自ら判断を下し、複雑なタスクをこなせる。同社がこの分野を重視していることは、この分野に弾みが付きつつある証拠といえる。

検索や要約を手掛ける米ヘビア(Hebbia)や、プログラミングコード生成・編集の米カーソル(Cursor)など、同社のこの分野の出資先の多くは様々な業界で使えるシステムを提供している。一方、同社のこの分野での活動からは、AIの医療業界での潜在的な破壊力もうかがえる。同社は24年に入り、医療・ヘルスケアに特化したAI企業数社に出資している。例えば、米ヒポクラティックAI(Hippocratic AI)は退院後の患者を追跡管理する非診断タスクを自動でこなすAIエージェントを手掛ける。

2)マルチメディア生成も同社のAI投資のかなり多くを占めている。アンドリーセン・ホロウィッツは24年に入り、生成AIを活用して多様なコンテンツを生成するこの分野のスタートアップ数社に出資している。例えば2月には、テキストから画像を生成するイデオグラムAI(Ideogram AI、カナダ)に出資した。さらに、米ルマAI(Luma AI)や英ケーディム(Kaedim)などゲーム開発や電子商取引(EC)用の3次元(3D)モデル作成を支援するスタートアップにも投資している。米イレブンラボ(ElevenLabs、合成音声)や米ウディオ(Udio、音楽生成)などへの投資が示すように、音声生成も重視している。

3)アーリーステージ(初期)企業に焦点を絞っている。アンドリーセン・ホロウィッツの24年のAI投資の大半はアーリーステージ企業に投じられている。アーリーステージ投資の対象は「エージェント&コパイロット」と「マルチメディア生成」に集中しており、両市場の成長の可能性を示している。一方、他の分野の有望企業にも創業初期から関わろうとしている。例えば、24年5月にはドローン(小型無人機)開発の米エアロドーム(Aerodome)と、がん診断の米ベイラーラボ(Valar Labs)のシリーズAラウンドに出資した。

4)アーリーステージ投資を率いている。アンドリーセン・ホロウィッツは24年に参加したアーリーステージラウンドの半数以上でリード投資家を務めるか、唯一の投資家になっている。これはマルチメディア生成分野のアーリーステージ投資の大半にも当てはまり、こうしたスタートアップへの傾倒ぶりや、この分野に対する強気の姿勢がうかがえる。エージェント&コパイロットでの投資先の大半もアーリーステージ企業が占めており、米アルテラ(Altera、ゲーム)、カーソル(プログラミング)、米デカゴン(Decagon、カスタマーサポート)、米テナー(Tennr、医療機関のバックオフィス業務)のラウンドを主導している。

5)24年に参加した大型ラウンド上位2件はいずれもオープンAIのオープンソースのライバルで、世界のAI開発競争を後押ししている。アンドリーセン・ホロウィッツは5月末にxAIのシリーズB(調達額60億ドル)に参加し、その数週間後にミストラルAIのシリーズB(5億200万ドル)に出資した。いずれもソースコードが原則非公開(クローズドソース)のオープンAIに対抗するため、オープンソースのLLMやLLMを搭載したチャットボットを開発している。

ミストラルAI、オープンAIに対抗するため数億ドルを調達

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