エチレンを生産するレゾナックの大分コンビナート(写真=レゾナック・ホールディングス提供)

「ステークホルダー(利害関係者)にとって最適な解だと考えている」。レゾナック・ホールディングス(HD)の高橋秀仁社長は14日、オンラインで開催した決算会見の場で石油化学事業の一部をスピンオフ(分離・独立)することを検討すると明らかにした。

検討する仕組みはこうだ。レゾナックHDが大分コンビナート(大分市)で手掛ける石化事業を2〜3年後をめどに分離し、新会社が継承。レゾナックHDなどが新会社の株式計2割弱を保有した上で、残りの8割強は現物配当としてレゾナックHDの既存株主に割り当てる。さらに新会社は東京証券取引所に上場する考えだ。

今回使うのは「パーシャルスピンオフ(部分的分離)」と呼ぶ制度で、2023年度の税制改正の際、これまであったスピンオフ税制を見直す形で政府が導入した。スピンオフ税制では、企業は分離した子会社などの全株式を手放すなどしなければ税優遇を受けられなかったが、パーシャルスピンオフ制度では分離する子会社株式の保有を2割未満に抑えるなどすれば、実質非課税でスピンオフできるようになった。

レゾナックHD以外にも、例えば、ソニーグループはパーシャルスピンオフを活用して金融子会社のソニーフィナンシャルグループを25年10月に分離・上場させる方針を示している。

「手放すことが目的ではない」

レゾナックHDの狙いは何だろうか。世界が脱炭素社会の実現に進む中、二酸化炭素(CO2)を大量に排出する石化事業から今後撤退するための布石だろうか。ただ高橋氏は決算会見で「手放すことが目的ではない」と強調した。

レゾナックHDが14日発表した23年12月期連結決算では、石化事業の売上高は前の期比3%減の3163億円。世界的な需要減退によって減収だったものの、同業他社が苦戦する中で営業損益は87億円の黒字となった。染宮秀樹最高財務責任者(CFO)は「右肩上がりで成長しなくとも安定収益を上げていける事業だと考えている」と話す。

一方で、レゾナックHDは中長期的な成長が見込める分野として、半導体・電子材料を主軸に据えた事業改革を進めている。こうした状況の中、高橋氏は23年5月の日経ビジネスのインタビューで「(石化事業は)会社全体の業績がぶれる大きな原因となり、株価で罰を受けている。我々はベストオーナーではない」と説明。複数の事業を展開する企業が過小評価される「コングロマリットディスカウント」を課題に挙げていた。

安定収益を上げる石化事業からは完全に手を引かず、将来の成長のために半導体・電子材料事業に経営資源を集中させる。さらにコングロマリットディスカウントを解消し、半導体関連銘柄として評価を受けやすくする。高橋氏は「(石化事業の)独り立ちには、この形が一番きれいだというのが思考回路の中心にある」としている。

石化事業の扱いは共通課題

脱炭素の潮流が強まる中、国内の化学メーカーの間では石化事業の扱いをどうしていくかが共通の課題だ。実際、石化製品を生産する過程の「川中」と「川下」にあたるポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂については撤退や生産能力の削減といった動きが広がっている。ただ、プラスチックの大本となる「川上」のエチレンについては各社の腰は重い。

「石化事業の川上と、(川中・川下の)誘導品とを切り分けて考えるべきだ」(旭化成の工藤幸四郎社長)。「競争力のある誘導品をいかにつくるかが重要。その上で上流が持つべき能力や形を考えていくべきだ」(三井化学の橋本修社長)

こうした慎重論もあり、エチレンについては10年代に国内の石化需要が減少して工場の稼働停止などが断行された後、生産能力縮小の目立った動きはない。供給が需要を大幅に上回っている状況で、石油化学工業協会(東京・中央)によると、エチレン工場の稼働率は好況の目安とされる90%を下回る状況が1年5カ月も続く。

最近では、石化事業の再編論者として注目されていた三菱ケミカルグループのジョンマーク・ギルソン社長が24年3月末に退任することが発表された。石化事業は共同事業体(JV)方式で他社と統合させて25年度中に売却または非連結化する、という大胆な構想を掲げていたが、目立った成果を出せなかった。

ギルソン氏の考えは石化事業を完全に分離して資本関係をなくすというものだった。分離する時期も明確に定め、従業員の雇用継続も保証しない。社内外からその実現性に疑問の声が上がっていた。また、ある大手化学メーカーの幹部は「社内で密なコミュニケーションが取れなかったのが失敗の要因だ」とも話す。

石化再編の機運、再び

石化再編の機運はしぼむかと思われた。しかし今回、レゾナックHDの高橋氏は「業界内で石化再編に向けた機運は高まりつつある」と強調。パーシャルスピンオフのみにこだわらず、JV方式で再編を進めるなど他社との柔軟な対話に応じていくことも一つの選択肢だとした。

レゾナックHDの高橋秀仁社長は、石化事業について再編も含めて他社との連携を視野に入れている(写真=古立康三)

方向性もギルソン氏とは真逆だ。(1)分離後も資本関係は維持する(2)時期ありきではない(3)従業員の雇用継続を前提とする――としており、高橋氏は「社内で議論を詰めた結果、現時点でノックアウトファクター(実現性がなくなる条件)はない」と自信を見せる。

需給バランスのいびつさや加速する世界の脱炭素化などを踏まえれば、国内化学メーカーにとって石化事業のあり方を見直すことは待ったなしだ。レゾナックHDが新たな台風の目となって、石化再編の議論が再び盛り上がるに違いない。

(日本経済新聞 生田弦己)

[日経ビジネス電子版 2024年2月21日の記事を再構成]

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