コロナ禍を機に「まねきねこ」がカラオケ首位を奪取した(写真=コシダカホールディングス提供)

「通常の出店ペースを崩さなかった背景には、カラオケ事業への覚悟のようなものがあった」

カラオケ店「まねきねこ」を全国展開するコシダカホールディングス(HD)の腰高博社長は、新型コロナウイルス禍のさなかでも新規出店を続けた理由をこう話す。

2020年、緊急事態宣言の発令などでカラオケ店は休業や時短営業を強いられた。競合他社は出店をやめる中、コシダカHDは約50店を出した。

コロナ禍でも通常の出店ペースを崩さなかった(写真=コシダカホールディングス提供)

コロナ禍の収束が見通せない中での大量出店はリスクも大きかったが、廃業する居酒屋などが増え、結果的に以前なら賃料が高くて出店できなかった好立地の物件に入ることができた。21年には居酒屋チェーン、大庄のカラオケ事業から一気に43店を譲り受けた。コロナ禍収束後に業績はV字回復し、23年8月期は売上高・営業利益とも過去最高に。国内店舗は24年7月末時点で659店に達する。

コロナ禍での逆張り出店は業界の勢力図も塗り替えた。日経MJの「サービス業調査」によると、コシダカHDはカラオケ事業の売上高で「ビッグエコー」の第一興商、「カラオケ館」のB&V(東京・練馬)に次ぐ3位だったが、20年度に初めて首位に躍り出たのだ。下克上を果たした後も、第一興商と激しい首位争いを繰り広げている。

コシダカHDは、1967年に先代社長が前橋市で創業した中華料理店が前身。腰高社長が90年にカラオケ事業に参入し、一代で全国チェーンに育て上げた。参入当時は、個室のカラオケボックスが普及し始めた黎明(れいめい)期だった。

一代で全国チェーンに育て上げた腰高社長(写真=コシダカホールディングス提供)

業界首位に到達するまでに2つの成長ステージがあった。参入から10年以上は、不採算店や廃業した個人経営のカラオケ店を引き継いで業容を拡大。居抜き物件をそのまま活用することで初期投資を抑え、郊外のロードサイド店を中心に店舗を増やした。

「1人カラオケ」の火付け役に

2014年ごろからは駅前の繁華街などにも出店し、自前で内装を手掛ける形に転換した。「暗い」「酔っ払いが多い」という従来のイメージを覆すため、明るい照明や独自開発の防音ドアを設置。女性やファミリー層に客層を広げた。各商圏の中で一番安い水準に価格設定にして集客し、部屋の稼働率を向上させている。

腰高社長は「ただのカラオケ屋として旧態依然としていたら飽きられる。常に新しいサービスを創出してきた」と振り返る。他社に先駆けてルーム内にドリンクなどを持ち込み可としたり、ドリンクバーを設置したりしたほか、「1人カラオケ」の火付け役となった。

地方のロードサイド店に通っていた高校生が、社会人になって駅前店を利用する――。全国展開で集客する好循環ができ、事業基盤は整った。ライブ映像鑑賞や人気アニメとのコラボ、歌う様子をアバターに変換して撮影するなど、新サービスも次々と繰り出す。カラオケ以外のコンテンツ投入でエンタメ体験の多様化を目指す。

コシダカHDによると、同社はカラオケルーム数のシェアで国内トップ水準の18%を占める。将来はこれを3割に高めるのが目標だ。創業の地である群馬県では3割といい、腰高社長は「カラオケといえば『まねきねこ』という断トツの存在にしたい」と攻めの姿勢を貫き、今後は近畿などへの出店を増やす。

多くの利用者でにぎわう海外の店舗(写真=コシダカホールディングス提供)

日本式カラオケの海外展開加速

ただ、少子高齢化にはあらがえない。国内カラオケボックス市場は縮小傾向にある。コシダカHDは以前から国内だけでは中長期的な成長は厳しいとみており、11年に韓国へ進出した。10年ほど試行錯誤したところ、海外でも勝ち筋が見えてきたという。

またタイやインドネシアなど東南アジアでは、日本式のカラオケボックスが人気で黒字化に成功した。24年は進出国も増やし、「徹底的にアクセルを踏む」(腰高社長)としている。

(日経ビジネス 薬文江)

[日経ビジネス電子版 2024年8月5日の記事を再構成]

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