クロマグロをクレーンで釣り上げて陸まで搬送する漁船に揚げ、漁船で血抜きなどを行う(京都府伊根町の西南水産伊根事業所)

ニッスイは10月1日、傘下の2社で手掛けていた養殖マグロ事業を新会社に一本化する。重複業務の統合のほか、足元で約20%だった短期養殖の比率を2031年3月期に約55%に引き上げ、収益力を高める。天然資源の回復や飼料の高騰などマグロを取り巻く環境が変化し、養殖魚の収益性が低下していることから、経営を効率化して競争力を高める。

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ニッスイの国内養殖マグロ市場でのシェアは20%超。子会社の金子産業(長崎市)と西南水産(鹿児島県瀬戸内町)が手掛けており、この2社の養殖マグロ事業を、吸収分割によって金子産業が設立した「ニッスイまぐろ」(長崎県佐世保市)に承継する。

新会社の事業本部は金子産業の唐津事業本部(佐賀県唐津市)に置く。西南水産は養殖マグロ事業のみを手掛けていたが、金子産業は食品加工事業なども行っており、それらは引き続き金子産業が担う。

「ニッスイまぐろ」の事業本部が置かれている金子産業事業本部(佐賀県唐津市)

金子産業は12年、西南水産は06年にニッスイ(旧日本水産)が子会社化した。ただ、18年以降、赤潮や台風などの影響で養殖マグロ事業の業績が悪化し、ニッスイは21年から2社の統合の模索を始め、動き出していた。

まず両社のシステムや管理部門の統合、飼料の共同仕入れでコスト削減を図り、次に事業本部を一体化。賃金体系や営業窓口も統一するといった取り組みを重ねてきた。一定の事業効率改善がみられたため、今回の新会社設立が決まり、10月1日から業務を始める。

ニッスイはグループ内のクロマグロの養殖生産をニッスイまぐろに一本化する。これまで金子産業と西南水産の2社で別々に行っていた業務を一括で行うことでコストを下げるとともに、養殖から加工、販売までニッスイグループ内での連携を強化する。

例えば、これまで2社がそれぞれ行っていた、養殖用の稚魚の捕獲に関する取引はニッスイグループの共和水産(鳥取県境港市)が主に担う。餌の調達や水揚げ後の加工は金子産業が元々もっていた機能を活用する。最終商品の販売はニッスイも一部担当する。

収益性の高い短期養殖の比率も高める。通常の養殖は2キログラムほどのマグロを漁獲し、3〜5年かけて育成する。長期間育成することで個体差を減らし、見た目や肉質を安定させることができるが、育成期間が長いため赤潮や台風といった環境要因に影響を受けやすい。

短期養殖マグロをいけすから水揚げしている様子

一方、短期養殖は100キログラム前後まで育ったマグロをとって半年ほど育成する。「いけす」と呼ばれるマグロを飼育する囲いを大きくするほか、飼育に適した海洋条件の選定などが必要となるものの、リスクが少なく、飼料コストや人件費も削減できるとされる。

いけすの中で養殖中のクロマグロ

ニッスイは徐々に短期養殖用の設備を増やし、23年3月期に約20%だった短期養殖の比率を31年3月期に約55%に高める。

ニッスイの24年3月期の養殖事業の売上高は前の期比22%増の846億円だったが、営業利益が同54%減の41億円だった。南米で手がけるサケ養殖の収益悪化が響いたが、国内養殖も減益だった。25年3月期も国内養殖では飼料高騰の影響で利益率の減少を見込む。

同社は養殖の効率化・最適化を投下資本利益率(ROIC)向上のための重点課題と位置づける。23年3月期からの中期経営計画で掲げる25年3月期のROIC目標5.5%以上に対し、24年3月期は5.3%と未達だった。養殖会社の統合による短期養殖マグロの拡大でリスクや資金負担の軽減と収益性向上を目指す。

天然物回復、飼料高で採算悪化


ニッスイが子会社を統合した背景にはマグロ養殖が転機を迎えていることがある。
世界的な漁獲規制によりマグロは天然資源が回復し、養殖魚の収益性が低下している。飼料となる魚粉や油脂も高騰しており、コスト増も負担になっている。
極洋はフィード・ワンとの共同出資子会社でマグロ養殖を手がける極洋フィードワンマリンを3月に解散した。完全養殖クロマグロの生産・販売を目的に2012年に設立したが、採算が悪化していた。同社は「事業環境が大きく変化したことから一定の役割を終えた」としている。
23年の養殖クロマグロの全国出荷量は前年比18%減のおよそ1万7000トンだった。天然魚の増加で価格が低下していることから出荷を抑える動きが広がっている。
太平洋クロマグロは資源が回復していることから25年に漁獲枠が現行より5割増える見通しだ。今後も天然資源の回復が見込まれるなか、マグロ養殖事業の収益性をどう確保するか、各社が模索している。
(荒木玲、高橋佑弥)

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