新卒3年目で国内の運用会社のファンドマネージャーに抜てきされた25歳の松本凌佳さん。自らが「迷走していた」と明かす学生時代から何がきっかけで金融業界に足を踏み入れたのか。「夢だったわけではない」というファンドマネージャーになり、心を躍らせて働くようになったプロセスは、将来の夢を持ちづらい多くの若者の参考になる。

入社のきっかけはゼミに来た講師

「ひふみ投信」で知られる運用会社のレオス・キャピタルワークスに就職したきっかけは、大学で在籍していた企業分析のゼミの発表会に、藤野英人社長が講師としてきたことだった。

新型コロナウイルスが及ぼす社会への影響を踏まえ、ひふみの運用の現金比率を上げて資産を守ったと聞き、投資に関心があった松本さんは「すごいことをするファンドマネージャーがいる」と感じた。つてをたどり、藤野社長に面談を申し込み、入社を決めた。

アナリストとして働いていたが、ファンドマネージャーにならないかと打診された。一般的にファンドマネージャーの年齢層の中心は30代半ばから40代で、一人前になるには10年以上の運用経験が要るとされる世界だ。松本さんも驚いたという。

24年に入って運用を担当するようになったのは、上場株だけでなく、未上場株を組み込んだ公募投信だった。

始業は朝8時半。投信に組み込む企業の社長と面談したり、工場に足を運んだりし、1日3〜4件回る。ファンドマネージャーはパソコンの前に張り付いているイメージがあったが、外回りも多い。「企業に伴走している感覚がある」。

オフィスや工場からはそれぞれの企業がもつ「物語」を感じられる。世の中に価値が認められていない企業がどう大きくなり、これからどこに向かうのか。「未上場株を見るようになり、心躍る物語を見られる可能性が高くなったのがやりがい」と話す。

「仕事は生きがい」と思う若者、30年間で増加

「仕事は生きがいになると思う」。こう考える19〜22歳は実は30年前より増えている。博報堂生活総合研究所「若者調査」によると、24年に57.3%と、微増だが約3ポイントあがった。

この5年ほどでバリバリ働きたいと考える若者が増えたとうかがえるデータもある。パーソル総合研究所が仕事を選ぶ上で重視することを20代に聞いた調査では「休みが取れる・取りやすい」「仕事とプライベートのバランスがとれる」は19年に4割超だったが、23年に3割台になった。

運用会社に新卒で入社した別の20代男性は「世の中のニーズがなくならないものに携わりたいと考えて金融業界を目指した」。銀行や保険などの金融機関は転勤があるが、運用会社は転勤がないことが多い。安定して同じ地で働ける点も運用会社の魅力だったという。

20代女性は「運用会社の方が個人などに直接商品を販売する会社よりも世の中に与えるインパクトが大きいだろうと憧れた」と入社の動機を明かす。投資家に選び続けてもらい、商品やサービスが大きくなることで収益が得られるビジネスモデルにも共感した。

将来の夢がある若者 インド88%、日本60%

日本には将来の夢を持たない若者が多いとのデータがある。日本財団が24年に日米英中韓印の6カ国で17歳から19歳の男女を対象に実施した調査によると「将来の夢がある」と答えた割合は60%と日本が最低だった。他国に比べ10%超低く、最も高いインドは88%だった。

松本さんは就職活動をしていた頃を「人生に迷走していた」と振り返る。地元の九州に戻るか、医学部に入り直すか、すご腕の営業マンを目指すか。藤野社長との出会いからレオスに入社したときに立てた5年間の目標も全てアナリストとしてのものだった。

それでも松本さんは今の仕事に心を躍らせ、ファンドマネージャーとして「世の中の役に立ちたい」と夢見るようになった。小さいときから偉人伝が好きで、サクセスストーリーを知るとわくわくした。その気持ちが投信に組み込む企業の発掘につながっている。

「予想外の打診」など、意図せずに若くしてたどり着いたファンドマネージャーの仕事。夢見てもいなかった仕事は今、松本さんの生きがいになっている。

(森川美咲)

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