藤井宏明氏。慶応義塾大学理工学部卒、1994年、JR東日本入社、2001年日本テレコム(現ソフトバンク)入社、05年ソフトバンク・プレイヤーズ(SBプレイヤーズ)社長、14年さとふる社長など歴任(写真=的野弘路)
総務省は8月初旬、2023年度のふるさと納税額が1兆1175億円になったと発表した。ふるさと納税の拡大は止まらないが、制度は曲がり角を迎えている。寄付者に対するポイント還元競争が過熱し、ふるさと納税の趣旨から反するとして、総務省は自治体にポイントを付与する仲介サイトの利用を25年10月以降は禁じる告示を出した。
それに対して、仲介サイト最大手の楽天グループは強く反発。同社の会長兼社長の三木谷浩史氏が、X(旧ツイッター)上で「創意工夫、地方に恩返しという思いをぶっ潰そうとしている。断固反対する」と述べ、ポイント廃止に反対する署名活動を展開。同社は8月上旬、185万件を超えるネット署名が集まったと発表した。ソフトバンクグループの仲介サイト大手さとふる(東京・中央)は、ポイント禁止など今後のふるさと納税制度をどのように捉えているのか。さとふるの藤井宏明社長に話を聞いた。

――ふるさと納税関連の事業に参入して10年です。どのような経緯でこの事業に参入しましたか。

「日本各地で太陽光発電事業を手掛けている際に、ふるさと納税に返礼品を付ける自治体が出始めていました。我々は、鳥取県米子市で大きな太陽光発電所を手掛けていたのですが、そのそばで境港市が返礼品を付けてふるさと納税をぐっと伸ばし、鳥取県内でも非常に目立っていたんです」

「そこで米子市役所の方から私に相談がありました。ふるさと納税に取り組みたいが、業務が年末に偏るし、役所の中でやるというのも厳しい。地元でそれを受けられるような会社もなかなか見つからないという内容でした」

「他の自治体からもお話があったので、そういう業務をある程度、フォーマットを統一することで効率性を担保すれば、我々が受託する意味があるのではないかと思ったのが参入のきっかけですね。それが14年でした」

――それが23年度にはふるさと納税による寄付額が1兆円を超えました。10年前はどれぐらいの寄付額でしたか。

「14年度の寄付額は388億円で、まだ楽天さんは参入していませんでした」

「我々が商品を開拓・選定し、物流の管理をするときに、固定で手数料を決めると自治体の方もコストだけになり、やりづらいという話でした。それであれば、成功報酬的に率でやる方が助かるという要望が自治体さんから多かったので、料率というビジネスモデルを採用しました」

ポイントの廃止で急にふるさと納税がしぼむことにはならない

――総務省が自治体に、25年10月以降ポイントを付与する仲介サイトの利用を禁じる告示を出しました。どのように受け止めていますか。

「基本的には地方活性化のための制度ですから、その制度の運用についてよりよくしていく一環だと思っています。その中で我々もできることをやっていくしかありません」

「ポイントや返礼品については、それを付けることでふるさと納税を加速させてきたところは当然あったと思います」

「その中で総務省がルールを改正するということですので、ポイントについては加速させる役割を果たし終えたということなんだろうなと思っています」

「ポイント以外でふるさと納税の趣旨にもうちょっと戻りつつ、地方の特産品を開拓するところなどの知恵を絞る方向にシフトすべきだということではないでしょうか。本当の地方の価値を上げるような取り組みというものをやっていきなさいよ、ということだと受け止めています」

――ポイントがないと、事業は運営しづらくなりますか。

「この10年近くポイントをベースとして運営してきていますので、そこで蓄積されてきたマーケティングデータは当然あります。そこからまた別の世界に行きますので、どういう世界が広がるのかというのは、今後はやってみないと分かりません」

「ただ、当然変えていかないといけないところです。その変えた中で、我々がいることで地方の価値が上がるようにしていきたいと思っています」

――ポイントがなくなった後は、ふるさと納税はどうなると見ていますか。

「ふるさと納税において、返礼品は寄付額の3割以下というルールの中で、制度的には十分に寄付のインセンティブがある状態だと思っています。3割のバリューに見合った返礼品を出していれば、ふるさと納税がしぼむことにはならず、まだ伸びていくと見ています」

――今後はどのように他社サイトと差異化をしていこうと考えていますか。

「我々は寄付を受け付けた後について、寄付者さん向けのプロセスをかなり磨いてきました。ここのところが他の事業者に比べて強みになっているところではあります」

「他社を通じた寄付についても、我々のシステムに登録すれば、そのまま控除のプロセスが済むようになっています」

「物流のオペレーションを自社で管理しているので、返礼品が届きそうになったらアプリ上で通知が届くようになってます」

「寄付の情報は、いったん各自治体さんに全部入りますが、当社は配送も手掛けているので、データが集まってきます。その統計情報を基に、次の特産品を彼らも一緒に開拓できるような、そのようなシステムの開発を今進めています」

(日経ビジネス 大西孝弘)

[日経ビジネス電子版 2024年8月28日の記事を再構成]

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