パンダのキャラクターが目印の「おやつカルパス」=大阪市北区で2024年10月4日、梅田麻衣子撮影
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 駄菓子屋さんやスーパーなどで見かける「おやつカルパス」。昨年は6億本以上販売された人気商品だ。ひとくちサイズで、大人からすれば、お酒のおつまみにぴったりという気がするのに、子ども向けなのはどうして? 疑問を解決するため、製造元のヤガイ(山形市)に聞いてみた。

 おやつカルパスの箱や個包装には、パンダが描かれている。かわいくて親しみやすい見た目だが、中身はしっかりと肉のうまみが味わえる。

 開発部の福田治洋さんと矢作修一さんに話を聞いた。ヤガイは1974年、「谷貝畜産工業」として創業した。肉の加工品などを扱っており、ドライソーセージの一種「カルパス」が、ビールや洋酒などに合う洋風のおつまみとして、人気を集めた。

 ところで、カルパスとサラミの違いって何ですか? 「牛肉、豚肉のみを主原料として使ったものがサラミで、鶏肉など他の肉も使っているものについた俗称がカルパスです。カルパスはロシア語が語源だといわれています」と福田さんが解説してくれた。なるほど、材料が違うのか。

 カルパスを個包装にして、保存しやすくした「ヤガイペンシル」が誕生したのが79年。発売当初は「ペンシルカルパス」といった。それまでは大袋入りが主流だったが、開封すると劣化が進んでしまう。そこで、常温でも日持ちするよう、1本ずつ真空包装した。矢作さんは「当時としては画期的だったそうです。包装の材質や方法など、作り込むのに苦労したと聞いています」と話す。

発売当初の「ヤガイペンシル」。「ペンシルカルパス」という名称だった=ヤガイ提供
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 おつまみの需要を中心に幅広い年代をねらったヤガイペンシルに対し、子どもにターゲットを絞ったのが2002年発売のおやつカルパスだ。1本30円のヤガイペンシルの半分程度の長さでありながら、価格は3分の1の10円に設定した。矢作さんは「正直言って、最初はもうかりませんでした」と笑う。それでも10円になったのは、先代社長・谷貝幹夫さんの熱い思いがあったから。「『どうしても10円で売りたい。お子さんに手軽に楽しんでもらうためには10円でないと』と、こだわって譲らなかったそうです」と矢作さんが打ち明ける。

 新商品の開発にあたり、子どもだけにアンケートを取って改良を重ねた。その結果、鶏肉と豚肉を使って、ソフトで食べやすいおやつカルパスが誕生した。企業努力で、採算も取れるようになった。

 でも、当時はすでに少子化がいわれていたはず。あえて子ども向けの安価な商品を開発するとは、思い切っている気もしますが。「そこまで考えていたかは分かりません。でも、大人になっても買い続けてくださる方も、自分が食べたからと、お子さんにも買い与えてくださる方もいます。本当にありがたいです」と矢作さんは話す。「ご家族みんなで召し上がることも多いようですね」と福田さんも言う。結果的に「珍味」から「おやつ」に間口を広げたことで、ファンを増やした。持ち運びにも便利で、弁当にそのまま入れたり、料理に使ったりもできる。

「おやつカルパス」には、レギュラーの味(右)以外にヤンニョムチキン味(中央)とクリームシチュー味(左)もある=大阪市北区で2024年10月4日、梅田麻衣子撮影
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 レギュラーの味以外に、甘辛さがほどよい「ヤンニョムチキン味」と、今年9月に発売した「クリームシチュー味」もある。意外な気がするが「クリームシチューの中には鶏肉も入っているし、親和性が高いのかなと。おいしくできましたよ」と福田さん。確かに、クリーミーでシチューに入っている肉のような味がする。かつてはツナマヨネーズ味やカレー味などを手がけたこともある。

 ヤガイは今年、創立50周年を迎えた。福田さんは「創造とチャレンジを大切に、長く愛される商品を作っていきたいです」、矢作さんは「高たんぱくということも、きちんとアピールしていきたい」と言う。健康志向でたんぱく質は注目を集めているし、やわらかいのでお年寄りでも食べやすい。まだまだニーズは掘り起こせそうだ。

 原料費などの高騰で、22年10月には1本12円に値上げした。それでも「12円で本物のお肉が食べられる商品は他にないと自負しております」と福田さんは胸を張る。開封すると「がんばろう」「ファイト!」などのメッセージが現れて、ちょっと和む。子どもたちの日常に寄り添いたい、という心意気をギュッと固めた1本。私の疑問にも、しっかりと白黒が付きました。【水津聡子】

「おやつパンダ」どこが変わった?

 おやつカルパスのキャラクター「おやつパンダ」は、9月に一新したばかりという。えっと……失礼ながら、どこが変わったのでしょうか? 「おやつパンダの特徴は目なんですが、社内で『そこは変えられないな』となりまして。なので、リニューアルしたのに似てしまいました」と福田さんが笑う。確かに、大きめの白目が印象的で、公式ホームページ(HP)によると、おやつパンダ自身は「たのしいのに『怒ってます?』と聞かれること」が悩みなんだとか。

 実はおやつパンダは今回で3代目。それぞれ並べてみると、線の太さや口の色、目の配置などが少しずつ違う。この微妙な違いを逆手にとって、歴代のおやつパンダを見分けるゲームもHPで公開している。

 ヤガイペンシルのキャラクター「ペンシルぼうや」も23年9月にリニューアルし、顔がよく見えるようになった。「ピーター」という名前も公表された。ガールフレンドの「チェルシー」、妹の「エマ」なども登場。「もともとピーターは先代社長が作ったキャラクターなんですよ」と福田さんが明かす。

 ヤガイペンシルは鶏肉、牛肉、豚肉を使っている。おやつカルパスよりしっかりとした食感で、少しだけスパイシー。こちらは開封すると、短い英文とその日本語訳が載っていて、勉強になる。

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