飲食店ではスルメイカの入荷が減少
東京、新宿区のイカ料理が名物の飲食店を訪れると、きょう水揚げされたというイカが運ばれていました。
しかし、例年との違いが…
「これはアオリイカです」
不漁になっているスルメイカの入荷が少なくなり、名物の刺身を提供できる機会が減っているといいます。
また、イカリングに使うための冷凍された材料の仕入れ値もおよそ倍に。
飲食店 店員
「客からは、スルメイカを食べたいという声が大きい。肝醤油はスルメイカ特有です。イカの刺身だけはあまり値段を変えずに頑張っていきます」
漁獲量 ピーク時の3%に
スルメイカは主に日本海を含む北西太平洋に生息し、東シナ海から日本海で生まれたあと、成長とともに北に向かって群れで長距離を移動し、北海道周辺で多く漁獲されています。
日本の漁獲量は1950年代から2000年までの間、おおむね30万トン前後で推移し、1968年のピークには66万トンあまりとなりました。
しかし2001年以降、減少傾向が続いていて、2016年からは急激に減少しています。
2023年の漁獲量は速報値でおよそ2万トンとなり、ピーク時の3%、33分の1の水準に落ち込んでいます。
水産庁はスルメイカの資源を守ろうと、1998年以降、漁獲量の上限を定めていて、今年度までの3年間は全国であわせて年間7万9200トンに設定してきましたが、実際の漁獲量はこの上限にも届かない状態が続いています。
このため、これまでの関係者が集まる会議で漁業者や加工業者からは▽実際のスルメイカの数はもっと少ないのではないかという意見や▽一定期間、禁漁するなど今より踏み込んだ対策をとらなければスルメイカの数は増えないのではないかなどの意見が出ていました。
漁業者も危機感 国は年内をめどに方針を取りまとめ
こうした状況を受けて水産庁は16日、都内で不漁の原因や今後の資源管理をどうしていくか話し合う会議を開き、全国のイカの漁業者や自治体の職員が出席しました。
まず、水産庁の魚谷敏紀資源管理部長が「スルメイカの今後の資源管理の目標や漁獲シナリオについて考え方を示すので、意見を伺いたい」とあいさつしました。
会議では水産庁の担当者が小型のスルメイカの漁獲を1トン控えた場合、半年後には3倍以上の重さに成長するという試算を報告しました。
一方、「スルメイカの移動ルートは年によって変わるため、小型だけを水揚げしないことは難しい」と述べ、対策の難しさをにじませていました。
これに対して漁業者の代表からは「漁獲がほぼない状況に危機感を抱いている」として、資源回復に向けて有効な取り組みを求める意見が出ていました。
会議のあと、水産庁の魚谷敏紀資源管理部長はNHKの取材に対し「スルメイカは資源状況が良くなく深刻な状況だ。漁獲も低レベルが続いていて現状では回復の兆しがなかなか見えていない」と述べました。
そのうえで今後の資源管理について「国内だけでできることは限界がある一方、外国に適正な管理を求めるという観点からも国内の管理をしっかりすることは重要だと思う。関係する漁業者の理解を得ながら進めていきたい」と述べました。
水産庁は今後も議論を続け、年内をめどにスルメイカの資源回復の目標や今後の資源管理の方針を取りまとめることにしています。
専門家「イカに合わせた管理の方法を」
国の研究機関「水産研究・教育機構」でスルメイカの資源評価を行っている宮原寿恵主任研究員は、減少した主な理由の1つとして親イカの不足が考えられるとしています。
具体的には、生まれたてのイカが成長する東シナ海では2015年から2年連続で海水温が極端に低かった影響で子どものイカの数が大幅に減ったため、資源が増えるために必要な親イカの数が足りなくなり、それが今の資源量の減少につながっているとみています。
こうした状況の中でその後も一定の水揚げが続いていることも資源量が増加に転じない理由だと指摘しています。
さらに東シナ海から日本海に流れ込む暖流の流れが変わり、日本の漁船が漁をしていた場所からスルメイカの生育域が離れたとみられることも減少の理由の1つに挙げています。
一方、漁業者を中心にスルメイカの減少は近年、資源量が回復傾向にあるクロマグロのエサになっているためという見方もあります。
これについて宮原研究員は「クロマグロはスルメイカも食べるが好んで食べているわけではなさそうだ。クロマグロの影響は自然死亡率が極端に高まるほどではないと思う」と話していました。
今後の見通しについては「生まれてから死ぬまでが1年というスルメイカは1年で復活することもあるかもしれないし、逆に減ることもあるかもしれず資源の評価が難しい。スルメイカの生育に適した環境になった時に資源が増えるよう、最低限の親イカが残っていることが大切でイカに合わせた管理の方法を考えることが重要だ」としています。
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