8月以降に量販店の店頭からコメがなくなった「令和の米騒動」。10月になり、新米の流通でようやく落ち着きつつある。ただし、価格は騒動前よりも大幅に高くなったままだ。価格の高騰が続く状況を生産者はどのように見ているのか。衆院選の投開票に向け、独自の販売ルートを開拓した米農家に政治に望むことを聞いた。【今井美津子】
21ヘクタールの水田を持つ北海道北広島市の「タカシマファーム」は有機肥料や土作りにこだわり、生産量の95%を独自ルートで販売する。
異変があったのはお盆を過ぎた8月中旬ごろ。これまで取引のなかった業者や個人から、コメの購入を希望する問い合わせの電話がひっきりなしにかかってくるようになった。高嶋良平社長(36)は「既存の顧客を優先するために断らざるを得なかった」と振り返る。新米のインターネット販売も1人10キロまでとした。
タカシマファームは、化学合成殺虫殺菌剤を使用しない農法で生産したコメを「田園交響楽」のブランド名で販売する。スーパーなどよりも割高の高付加価値米として売っていたが、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻以降、使用する有機肥料の値上がりが著しく、「米騒動」の以前から、今年の新米の値上げ(10キロ当たり400円)を決めていたという。
高嶋社長は「周りが驚くほど高騰してしまい、新米から値上げしても『リーズナブルなコメ』になった。米騒動でかき回されている」と吐露する。米価高騰に便乗した値上げは予定しないが、そうせざるを得ない同業者の気持ちは理解できると明かす。
約30年前は60キロ当たり2万円程度だった米価は、1995年の新食糧法施行によって価格競争にさらされた。新型コロナウイルスの流行による外食産業の不振で同1万円程度まで下落。高嶋社長によると、全国的に60キロのコメの生産に1万5000円前後の経費がかかり、赤字の状態の農家が多かったとみられる。
コメの生産量は国の需要予測に基づき、各都道府県とJAなどで作る「農業再生協議会」が各自治体に振り分ける。今回の騒動でコメの在庫の問い合わせが相次ぎ、高嶋社長は改めて生産調整に疑問を感じたという。「コメが欲しいと言われているのに、他の生産者が米作りをやめないとうちは増やせない。意欲がある農家が作れないのはおかしい」
消費者、生産者が混乱しないために、政治ができることはある。「価格高騰で経営危機から脱した農家もいると思うけれど、小規模農家が生き残れば国が望む農家の集約化はかえって進まない。『値段が上がって良かったね』ではない。結局、コメが買えなくて困るのは消費者で、国は何がしたいのか分からない」と憤った。高嶋社長は「食糧安全保障に本気で取り組んでほしい」と訴えている。
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