選挙は買い?
株式市場には“アノマリー”ということばがあります。
直訳すると「通常とは異なる現象、異常な事象、例外的な動きやパターン」という意味ですが、金融資本市場では株価や為替レートの動きについて「理論的には説明することができないが、経験的に観測できる規則性」という意味で使われています。
いつくか紹介します。
「Sell in May」
文字どおり「5月に株を売れ」という意味。
アメリカ企業の中間決算が6月に控えているとか6月から夏休みをとる欧米の投資家が多いことなどから、株式市場では利益を確定させるための売りが出やすいと考えられている。
「ハロウィーン効果」
10月末のハロウィーンの時期にかけて株価が調整し、次の年の春にかけて上昇しやすいというデータもある。
最も有名なのが1929年10月19日のブラックマンデー。
今回の衆議院選挙は時期が重なっている。
ほかにもスタジオジブリの作品がテレビで放送されると次の営業日の株価が大きく変動すると言われていることから“ジブリの法則”という変わったアノマリーも存在しているようですが、因果関係は定かではありません。
アノマリーは数多くありますが、そのうちの1つが「選挙は買い」です。
選挙が行われるタイミングでは株価が上がりやすいとされているために生まれたアノマリーですが、実際過去の選挙ではどうだったのでしょうか。
過去の規則性は…
1979年から2021年までに行われた15回の総選挙について、解散日の前営業日から投開票日の前営業日までの株価の騰落を調べてみると、15回すべてで日経平均株価は上昇していました。
上昇率が最も高かったのは2009年です。
旧民主党が大勝し政権交代が起きたときで日経平均株価の上昇率は実に12.1%。
次いで高かったのは2012年です。
自民党が旧民主党から政権を奪還したときで日経平均株価は10.3%上昇しました。
15回すべてで上昇したという結果をみると“選挙は買い”というアノマリーは全くの的外れではないように思えます。
では、なぜ解散から選挙の投開票日にかけて株価は上がるのでしょうか。
もちろんアノマリーなので理論的な説明は難しいという前提ですが、市場関係者に聞いたところ「選挙の公約などで示される経済政策への期待が高まるのではないか」「日本は政権交代が少なく、海外勢から見ると政策が大きく転換することが少ないため株高が意識される」「与党が勝つケースが多いため、政策運営が安定するという期待があるのではないか」といった指摘が聞かれました。
ちなみにアメリカの大統領選挙はどうでしょう。
SBI岡三アセットマネジメントの調査によりますと1947年から2022年を対象に大統領選挙の年、1年前、2年前、3年前と4つの期間に分けて、主要な株価指数の1つ「S&P500」の変化をみたところ、大統領選挙の前年1年間の騰落は、過去19回すべてで指数が上昇するという結果になっているということです。
アメリカでも“大統領選挙の前年に株価が上がる”というアノマリーがあるそうですが、結果をみるとこのアノマリーもあたっているように見えます。
選挙が終われば?
ここまでは解散ー投開票日までの株価の動きでしたが、選挙が終わったあとの株価はどのような動き方をしたのでしょうか。
総選挙の直後の営業日から半年間の株価を見てみました。
同じく1979年からから2021年までの過去15回の総選挙を見てみますと9回上昇しています。
特に上昇の幅が大きかったのは2012年で上昇率は30.3%でした。
このときは経済の再生を掲げた「アベノミクス」に対して市場の期待感が膨らみ株価が上昇しました。
次いで2005年の26.4%で、いわゆる「郵政解散」で政治改革への期待感が高まっていました。
一方、残り6回は株価が下落しています。
とりわけバブル経済の崩壊が始まった1990年は26.5%、1996年の総選挙のあとは15.1%それぞれ下落しています。
“選挙は買い”というアノマリーは投開票日までは当てはまるものの、選挙後になると地政学リスクや海外経済の要因に左右されるのはもちろんですが、金融市場の投資家が選挙で訴えた政策がちゃんと実現しているのかを冷静に見極めようとしているのかもしれません。
2024年衆院選は
それでは短期決戦となっている今回の総選挙はアノマリーどおりになるのか。
石破総理大臣の場合、自民党総裁に就任した直後の東京株式市場(9月30日)では日経平均株価が一時2000円あまり下落。
終値も1900円超値下がりして過去5番目の下落幅という厳しい船出となりました。
そして衆議院の解散前日(8日)の日経平均株価の終値は3万8937円54銭。
公示日の15日は日経平均株価が一時4万円台を回復しましたが、きょう(18日)の終値は3万8981円75銭となっています。
投開票日は27日。
“選挙は買い”というアノマリーどおりとなるのか、はたまた過去15回の総選挙の規則性から外れるのか、外れた場合は何が要因なのか…ひとまず投開票日までのマーケットの動きに注目ですが、選挙後にはアメリカ大統領選挙というビッグイベントがあり、ことしの場合はそこも含めて市場の反応を見ておく必要がありそうです。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストにポイントを聞きました。
三井住友DSアセットマネジメント 市川雅浩チーフマーケットストラテジスト
「1つ目は衆議院選挙で与党が議席の過半数を獲得できるかだ。与党が獲得する議席数によっては市場に政局の先行き不透明感が広がり、株式市場にとってはマイナスになってしまうことも考えられる。
2つ目はアメリカ大統領選挙。衆議院選挙のあとは市場が最も注目するイベントだ。新しい大統領が増税を図るのか減税を進めるのかで日本の株式市場にも影響がでる。
3つ目が地政学リスクだ。緊迫化する中東情勢のほか、韓国と北朝鮮の状況によっては株式市場でも突発的な影響が出る可能性がある」
これらのポイントをみると、今回の総選挙の場合は投開票日の前後にかかわらず株価の動きが読みにくいように思えます。
それでも「理論的には説明することができないが経験的に観測できる規則性」というのがアノマリー。
選挙は買いなのか、歴史的な番狂わせがあるのか。
来週、選挙戦は最終盤となり、アメリカでは主要な企業の決算(四半期)も相次ぎます。
注目予定
(10月21日 おはビズで放送予定)
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