中小企業のIT導入を支援する国の事業について会計検査院が調べたところ、虚偽の申請や実績報告による補助金の不正受給が少なくとも55件あり、補助金交付額に換算すると計1億4755万円に相当することが判明した。不正の大部分で、IT導入支援業者が企業にキックバックを持ちかけていた経緯も判明。検査院は21日、中小企業庁などに対し、調査を徹底するとともに不正受給分を返還させるよう求めた。
IT導入支援事業は、中小企業が会計ソフトなどを導入した際、その実績に応じて費用の一部を国が補助する仕組み。中企庁の監督の下、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が運営し、実際の作業は国側の事務局に登録している支援業者が企業と契約を交わして請け負う。
検査院は今回、2020~22年度に補助金が交付された10万4437件(交付額計1464億2197万円)の調査を実施。従業員が1人しかいない企業が勤怠管理ソフトを導入していた事例など、不明点の残る383件を抽出してより詳しく調べたところ、55件の不正受給を確認した。
不正受給の大部分は、企業が支援業者に費用を一旦支払ったうえで自己負担額を上回るキックバックを受け取る構図だった。一方、支援業者は名目通りの作業をせず、コストとの差額で利益を得ており、国側に提出した実績報告に合成した画面キャプチャーを添付するといった不正も確認された。また、企業と支援業者の契約内容が国側への申請内容と異なっていたり、途中解約したにもかかわらず補助金を満額受給したりしていた不正も見つかった。
検査院は、国側に申請や実績報告の内容を精査する体制がなかったことが要因の一つと指摘。不正のきっかけには支援業者から企業への働きかけがあり、「自己負担なくITツールを導入できる」「自己負担額を上回る報酬を得られる」などと、キックバックを前提に補助金を申請するよう勧誘していたとしている。
中企庁などはキックバックが確認された支援業者15社の登録を取り消した。ただし、この15社が関わった事業は1978件(交付額計58億2891万円)に上り、不正受給額はさらに膨らむ可能性がある。中企庁の担当者は「検査院の指摘を受けたことは遺憾。監督責任もあり、厳正に対処するよう指導している」とコメントした。【渡辺暢】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。