大人数の宿泊に対応できるようベッドや水回りの設備を整える(写真=LDKプロジェクト提供)

「2023年から今年の初めごろは競合が少なくもうかったが、直近の半年くらいで競争が激しくなり、予約が入る民泊と入らない民泊とで差が出てきている」

大阪を中心に民泊施設を運営するLDKプロジェクト(大阪市)の生田博之代表はこう話す。観光庁によると、大阪市は届け出住宅数(24年7月時点)が1710件に達し、東京23区以外で最も多い民泊の激戦区。2025年国際博覧会(大阪・関西万博)を見据えて新規参入が相次ぎ、事業者間の競争が激しさを増している。

住宅の一部を旅行者などに宿泊施設として提供する民泊は15年ごろから、訪日外国人(インバウンド)をはじめとする観光客の宿泊先確保と空き家の有効活用法として全国的に注目を集め始めた。旅館などと比べて運営しやすく、手軽に収益化を目指せるとして参入する事業者が続出。「民泊ブーム」となったものの、20年に始まった新型コロナウイルスの流行で宿泊客が急減。事業者の撤退が相次いでいた。

ところが、コロナ禍後にインバウンドが再び増え出して宿泊需要が急回復し、ブームが再燃している。24年7月時点で全国の届け出住宅数は2万5000件を超え、コロナ禍前を上回り過去最多となった。また4〜5月における全国の民泊宿泊者数は約32万5000人となり、前年同期比で約1.3倍になった。

4〜5月の民泊宿泊者数の内訳を見ると、日本人が全体の44%を占め、約14万3000人と前年同期比6.8%増えた。利用増の一因がホテル価格の高騰だ。観光産業に詳しい日本総合研究所調査部主任研究員の高坂晶子氏は「会社から支給される出張費の規定を超えてしまう場合などは、ビジネスパーソンが割安な民泊を選択肢に考えるケースはあるだろう」と指摘する。LDKプロジェクトの生田氏は「コロナ禍前は5%ほどだったが今年は約20%が日本人の利用だった」と話す。

勢いがあるのはやはりインバウンドだ。4〜5月の外国人宿泊者数は約18万2000人で前年同期から59.4%伸びた。

日本政府観光局が発表した7月の訪日客数は約330万人となり、単月として過去最高を記録した。1週間以上の長期滞在で旅行を楽しむケースも多く、実際の住居のように利用できる民泊に魅力を感じる人が多い。日本人客は数泊ほどの短期間滞在が多く、民泊事業者にとってインバウンドに長期間利用してもらうメリットは大きい。

競合関係となるホテルは東京や大阪などで新規開業が相次いでいるが、「ここ数年で新しくできたホテルは外資系を筆頭にハイブランドのものが多く、長期滞在などを目的に、比較的安く泊まれる民泊に対するインバウンドのニーズは大きい」(日本総研の高坂氏)。

どこにでもあるマンションの一室などに民泊はある(写真=LDKプロジェクト提供)

また、民泊は基本的に食事が付いておらず、現地で気分に合わせて外食を楽しみたい観光客にも選ばれている。日本人に比べ、インバウンドの多くは民泊を利用することへの抵抗感は少なく、シンガポールの大手旅行予約サイト「agoda(アゴダ)」によると、コロナ禍後もインバウンドの日本での民泊ニーズは堅調という。

コロナ禍前のブームでは、参入のハードルが低かった分、安全面・衛生面の確保や民泊利用者による騒音トラブルが社会問題になったが、18年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、民泊の運営に一定のルールが設けられた。最近は部屋の所有者らに代わって民泊運営を代行する事業者も出てくるなど、産業としての裾野も広がりつつある。

1泊4000円、ホテルの半額に設定

地方で民泊を開業する機運も高まっている。アゴダ・インターナショナル・ジャパンの大尾嘉宏人代表は「インバウンドの間で地方に行きたいニーズは高まっており、民泊があることが旅行に行く決め手となり得る」と話す。民泊仲介大手の米エアビーアンドビーの日本法人も8月に新潟県佐渡市と連携協定を結ぶなど、地方戦略に注力している。人口減少によって増える空き家を宿泊施設に転換し、観光客を誘致する狙いだ。

現在、福井県の海沿いの地域で民泊事業の手続きを進めている60代の女性は「(主要な観光地に比べると訪れる人は少ないが)海辺で釣りを楽しみたいなど、一定の滞在ニーズがある」と見る。1人当たりの宿泊価格は3500〜4000円ほどで検討しているという。周辺のビジネスホテルの半額ほどを目安に設定し、安さを武器に観光客らを呼び込む。

福井県の60代女性が民泊用に購入した物件

だが、価格面の優位性を今後も維持できるとは限らない。足元では、インバウンドの増加を下支えしてきた円安に歯止めがかかりつつあり、日本への旅行ブームが下火になればホテルの客室単価は下落に転じ、民泊との価格差が縮まる可能性が高い。

大人数の宿泊に対応した新施設も

サービス面ではホテルや旅館に見劣りする中、民泊の新しい魅力をどう打ち出すか。冒頭のLDKプロジェクトが目を付けたのが、1部屋当たりの宿泊客数だ。外資系などのホテルは1部屋2〜3人のタイプが大半で、それ以上の人数が一緒に泊まれる部屋は限られる。

同社が8月にオープンした大阪市内の民泊施設「eni.suite unryuen(エニスイートうんりゅうえん)」は最大20人が宿泊できる。関西国際空港から大阪市の中心部へ向かう経由地である「天下茶屋」に位置し、大規模なグループや複数の家族で旅行するアジアのインバウンドなどがターゲットだ。庭園付きの風呂を用意し、和を連想させる施設をつくった。

ホテルとすみ分ける形で、宿泊施設の一形態として日本に定着することができるか。ここ数年が勝負となる。

(日経ビジネス 関ひらら)

[日経ビジネス電子版 2024年9月12日の記事を再構成]

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