性的少数者(LGBTQ+)の世界最大の旅行イベント「IGLTA世界総会」が23日、大阪市で始まる。アジアでは初めての開催となり、ホテルや旅行会社でLGBTQ+の受け入れに向けた動きが広がる。2025年国際博覧会(大阪・関西万博)を控え、国内外から多様な観光客を迎える体制づくりを急ぐ。
「観光地としての魅力に加え、ホテルなどの受け入れ体制も整ってきた。LGBTQ+の旅行者の訪日意欲は今後高まっていく」。総会を主催するIGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)のジョン・タンゼラ会長は日本経済新聞の取材でこう話し、「北米や欧州の旅行業関係者は日本に注目している」と強調した。
LGBTQ+が快適に過ごせるホテルやツアーなどを指す「LGBTQ+ツーリズム」の普及を目的として、IGLTAは1983年に米国で設立された。世界80カ国から旅行会社やホテル、航空会社など2400以上の団体が加盟する。
IGLTA世界総会は26日までの4日間、大阪・なんばのスイスホテル南海大阪で開かれる。会期中には約50カ国・地域から旅行業界関係者など500人以上が参加予定だ。第41回となる今回はJTBや大阪観光局がホストを務め、アジアで初めての開催となる。
旅行会社やホテル、観光地域づくり法人(DMO)がLGBTQ+向け旅行商品の企画について商談するほか、マーケティングをテーマにした講演などが開かれる。大阪観光局は海外の旅行会社やメディアが集まる機会を生かし、総会の前後に観光地の見学ツアーを実施する。関西各地で酒造見学や和菓子作り体験などをしてもらう。
IGLTAは「LGBTQ+の人々は旅行回数や消費額が大きいという多くの研究があり、観光業界からも歓迎されている」と経済効果も指摘する。コンサルティング会社、アウト・ナウによると、世界のLGBTツーリズムの市場規模は18年に2187億ドル(約32兆円)となり、16年から4%増加した。
LGBTQ+旅行者の受け入れには、ホテルなどの丁寧な対応も欠かせない。総会会場となるスイスホテル南海大阪は管理職や現場従業員向けにLGBTQ+の宿泊者の受け入れに関する研修を実施している。ダブルベッドの部屋を予約した男性2人組の宿泊客がフロントに来た際、「ツインにしますか」と聞かないようにするなどといったマナーを学ぶ。
スイスホテル南海大阪は月に1度、女装してパフォーマンスを行うドラァグクイーンのショーを開催している。藤本輝紀支配人は「LGBTQ+フレンドリーということが認識され始めた」と手応えを語る。専用旅行サイトなどを経由したLGBTQ+の客による宿泊や飲食収入は、24年は前年比2倍以上で推移している。消費額は他の客に比べて3割以上高いという。
LGBTQ+受け入れへの旅行業界の関心は高まっている。LGBTQ+に関するコンサルティングを手掛けるアウト・ジャパン(東京・新宿)では旅行領域のコンサルティング業務の件数が5年間で5倍になった。小泉伸太郎会長は「大手の旅行会社などからも相談が来る」と話す。
旅行予約サイトのブッキング・ドットコム・ジャパン(東京・渋谷)は、24年から同社が提供した研修を受講した宿泊施設に認定ロゴを表示している。
今後の普及に向けた課題もある。観光論に詳しい近畿大学の四宮由紀子准教授は「地方では観光施設に(性別を限定しない)バリアフリートイレが少なかったり、旅館が男女別の浴衣を用意するために予約時に性別を聞かれたりする。自治体や旅館組合などで理解を深めていくことが大切だ」と指摘する。
(谷本克之)
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