静岡市は25日、2030年にJR東静岡駅前で開業を目指す新アリーナの基本計画案を発表した。事業費は従来試算を上回る300億円とし、収容人数は8000席以上で市内最大となる。アリーナを含む周辺施設を高架の歩行者専用デッキで結ぶなどまちづくりも進め、アリーナ整備を機に新たなにぎわいを生む。
「年間70万人が集うアリーナにしたい」。難波喬司市長は計画案を説明しながら力を込めた。駅北口の市有地で、バスケットボールやバレーボールなど最高峰のプロスポーツの試合やコンサートを開催できる多目的アリーナの実現を目指す。
県内には1万席規模のエコパアリーナ(袋井市)があるが、静岡市内の市中央体育館(固定約1000席)、県所有のこのはなアリーナ(2700席)は収容能力が限られる。プロバスケットボールB2の「ベルテックス静岡」は市中央体育館が本拠地だが、リーグ基準の3000席を満たすためホーム試合のたびに不足分を仮設している。
難波市長は「県内最大席数にはこだわらない。収益を考えると8000席くらいが静岡市の規模ではちょうどいい」と話す。敷地内に商業施設やオフィスビルも整備し、試合やイベントがない時も日常的に人が集うようにする。「イベント出演者らが宿泊する必要がある」(難波市長)としホテルの併設も目指す。
整備と運営はPFI(民間資金を活用した社会資本整備)の一つのBTコンセッション方式を採用する。民間事業者が自ら提案した設計でアリーナを建設し、完成後は市が保有するものの運営権は事業者に有償で譲渡。事業者は施設の利用度を高めて収益をあげる。
市は建設費用の一部に運営権の譲渡益を充てる。実質的に事業者と分担することで市の負担を抑え、完成後の運営コストも負わずに済む。難波市長は「収益が上がる計画であるほど市の負担が少なくなる」とし、事業者のアイデアに期待する。24年度中に基本計画を確定し、25〜26年度に事業者を募集・選定する。
建設費用は300億円を見込む。市が従来示していた約265億円でも建設可能とみるが、「資材の高騰もあり余裕を持たせた」(難波市長)。
一方で市は事業者が建設・運営する33年間で市民の雇用所得が1455億円増え、地域経済への波及は5286億円に達するとの試算も示した。難波市長は「アリーナは公設公営で運営に税金を使い続ける『ハコモノ』ではなく収益施設、投資施設の側面がある」と効果の大きさを強調した。
新アリーナを災害拠点にも生かす。大型トラックで資材などを運び込める搬入口やコンクリート製の床を生かし、緊急物資集積所などに活用する。アリーナ内に設ける予定の個室のVIPルームは災害時には乳幼児がいる家族などに利用してもらう。セントラルキッチンを備え、避難者への飲食の提供も可能とする。
新アリーナを巡っては建設予定地周辺の道路渋滞が悪化するとの懸念があった。基本計画案では新アリーナと東静岡駅、静岡鉄道の長沼駅を結ぶ歩行者専用デッキを整備するとし、人と車の流れを分けて渋滞緩和を狙う。長沼駅周辺の「バンダイホビーセンター」などを含む一帯のまちづくりにもつなげる。
アリーナが備える駐車場は最小限に抑え、鉄道などの公共交通での来場を促す。難波市長は「歩いて来られるアリーナとすることでイベントなどが終わった後の街への滞留効果も期待できる」と話す。11月29日まで基本計画案への市民の意見を募る。
(大倉寛人)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。