日本のビールの販売が不買運動のあった20年と比べて10倍前後で推移し、人気が復活(9月、ソウル市内のコンビニ)

韓国で日本のビール人気が復活している。「スーパードライ」を売るロッテアサヒ酒類の2023年の売上高は不買運動があった20年比で8倍を超え、今夏のイベントも盛況だった。サッポロビールは24年1〜6月のビールの販売が20年同期比で12倍、前年同期からは57%増えている。需要は日韓の政治関係に左右されやすいが、高付加価値の路線で人気が沸く。

「缶ビールの王様」も人気をけん引

韓国で「缶ビールの王様」と呼ばれる商品がある。アサヒビールが販売し、蓋が全開になって泡が湧き上がる「生ジョッキ缶」だ。7月にソウル市で開いたスーパードライのポップアップ店「MODERN DRY BAR(モダン・ドライ・バー)」では、樽で注いだスーパードライや生ジョッキ缶を提供。16日間で8千人以上が訪れた。

ロッテアサヒ酒類の担当者は「オープン当初から、客足は想定をはるかに上回った」と驚く。人気を裏付けるように、同社の23年の売上高は20年比で8倍超になった。

24年9月からは生ジョッキ缶を使った高価格帯ビール「アサヒ食彩」の韓国での通年販売を始めた。韓国ではスーパードライの生ジョッキ缶がすでにプレミアムビールとして認識され、食彩は最上位に位置づけられる。アサヒは世界でビールの高付加価値化を進め、韓国はそのモデルケースのようにも映る。

サッポロは6年ぶりにテレビCM再開

サッポロビールは韓国で、海外限定の「サッポロプレミアムビール」の販売に力を入れている。不買運動などで現地の消費が落ちた20年1〜6月と比べ、24年同期の販売数量は12倍に伸長した。18年以来、6年ぶりに韓国でテレビCMの放映も再開したという。

韓国の飲食店街には日本のビールの看板が並ぶ(9月、ソウル市内)

体験型も増える。サントリーは24年7〜8月、主力ビール「ザ・プレミアム・モルツ」を提供する「ザ・プレミアム・モルツハウス」をソウル市で開催した。海外でのファン層の拡大を狙い、シンガポールや米ニューヨークなど世界8都市で実施したという。

農林水産省の農林水産物輸出入統計によると、23年の韓国へのビール輸出額は22年比4.3倍の82億円だった。ビールの国別輸出額では前年の3位から浮上し、台湾、中国を抜いて5年ぶりに1位となった。24年1〜8月でも前年同期比20%増の48億円になった。同国だけで、ビール輸出全体の37%を占める。

韓国では日本との政治関係が悪化すると、日本製品の不買運動が起きやすい。19年には日本が韓国を対象にした半導体関連素材の輸出規制を強めた後、日本製品の不買運動が起きた。

日本のビールも例外ではなく、20年の韓国への輸出金額は19年比87%減の5億円まで激減した。キリンビールの調査「世界主要国のビール消費量」によると、20年の韓国全体のビール消費量は193万6千キロリットルで、コロナ下でも19年比4%減にとどまった。その中で、日本のビールの落ち込みは際立っていた。

都心にビール文化の体験施設、外国人観光客と接点

時の政権に左右されず、日本のビール好きを増やせるか。カギを握るのは各社が24年、日本の都心に相次ぎ設けた体験施設だ。5月に改装オープンしたキリンビールのクラフトビール専門店「スプリングバレーブルワリー東京」では、6月の外国人来店者数が前年同月比で約2倍となった。

アサヒは今年、東京・銀座に期間限定でスーパードライの体験施設をつくり、サッポロもエビスビールの歴史を実感できる醸造所を東京・恵比寿に開いた。日本政府観光局によると、8月の訪日客数は293万人超と同月として過去最多だ。外国人との接点は生かし、国の枠を超えたファンづくりが重要になる。

(八木悠介)

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