工業用ゴム製造の朝日ラバーは医療向け製品を拡充する。臓器などの質感を再現可能なゴムの特性を生かし、医療系の教育機関で使う訓練ツールの開発を進める。安定した収益が見込める「医療・ライフサイエンス事業」を強化し、売り上げの6割を占める自動車向けに次ぐ第2の柱に育てる。
同社はこのほど、樹脂を使って心臓の仕組みと心電図の読み方を立体的に表現したミニチュアモデルを開発した。心臓を精巧に再現した模型と心電図で測る電気信号の波形を立体的に組み合わせ、心電図と心臓の部位の関係を直感的に理解できるようにした。
心電図にあらわれる波形は心臓をどの方向から見るかによって変化する。医療・看護の学生は平面の簡略図を用いて心電図の読み方を学ぶのが一般的だが、平面図では立体的な理解が難しいとの声がある。新製品は国際医療看護福祉大学校(福島県郡山市)から要望を受けて開発に着手し、医療教育の視点を取り入れて製品化した。
医療の研修・教育向け製品は4品目目だ。2023年7月には近畿大学やゲル素材メーカーのタナック(岐阜市)と注射訓練用のパッドを発表している。ゴムを用いて注射針を実際の血管に刺す際の感触を再現した。
教育機関などの採用増を受けて「医療・ライフサイエンス事業」は成長軌道に乗りつつある。26年3月期までの中期経営計画では、23年3月期に15億円だった同部門の売上高(連結ベース)を20億円まで増やす計画を設定した。足元の24年4~6月期も前年同期比13.7%増の4億3700万円と順調に伸びている。
同社が医療関連製品の拡充を急ぐのは、主力の自動車向け事業で不透明感が増しているためだ。10月30日に25年3月期の業績予想を下方修正し、営業利益は前年同期比で77%減るとの見通しを発表した。主力の納品先である国内自動車メーカーの海外展開の低迷などを理由に挙げた。
久保田敬之経営企画部長は「新たな成長領域の強化が欠かせない」として、医療向け製品に期待をかける。訓練ツールなどは比較的高い単価が見込めるうえに、現場のニーズを知るために医師らと接点を持てる利点があるという。
医療向け製品の生産能力を増強するため、約4億円を投じて第二福島工場(福島県泉崎村)の建屋を増築する。販売子会社の朝日フロントメディック(東京・中央)も8月に設立。自社製品に限らず複数の部材を医療機器メーカーなどに提案し、製品を利用する医療系教育機関などの課題を吸い上げ、開発に生かす役割を担う。
(荒牧寛人)
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