景品表示法の改正でインフルエンサーなども新たに悪質広告の罰則対象に

「インフルエンサーなども気をつけていただかないといけない。(悪質な広告の)抑止力になるのではないか」

デジタル相(当時)の河野太郎氏は5月、景品表示法(景表法)の改正が衆参両院で可決成立したことを受けて、定例会見でこう語った。

この改正景表法が10月1日、施行された。商品やサービスの品質や規格について、事実とは異なる優良誤認や有利誤認を招くような広告表示をする事業者に対し、行政処分などを挟まずに罰金を科す「直罰規定」などが新たに導入された。100万円以下の罰金となる。

これまでは誤認を招く広告表示をした事業者が、消費者庁や都道府県から不当な広告の停止を命じる「措置命令」などの行政処分を受け、それでも行為が止まらないケースにおいて、はじめて罰則が科される仕組みだった。

誤認を招く広告表示の摘発は、直近でも相次いでいる。2月にはWi-Fiレンタルサービス「イモトのWiFi」を手がけるエクスコムグローバル(東京・渋谷)など6社が、合理的な根拠なく「お客様満足度No.1」などをうたったことで消費者庁から措置命令を受けた。5月には中国電力が、実際よりも安くなるかのような広告を表示したことで景表法違反(有利誤認)と見なされ、16億円超という課徴金納付命令を受けた。改正景表法は、こうした悪質広告に歯止めをかける一手となる。

改正景表法では、悪質な広告表示をする商品やサービスについて、これらを宣伝するインフルエンサーなども新たに罰則対象となりうる点もポイントだ。景表法は基本的に広告主を規制する法律であり、事業者から広告や宣伝の依頼を受けたインフルエンサーや広告代理店はこれまで処罰の対象外だった。しかし今後は、悪質な広告主と共に、「共同して犯罪を実行していると評価できる場合」(河野氏)は、インフルエンサーなども共犯として処罰の対象となりうる。

再犯への処分も重くする。違反行為から遡って10年以内に課徴金の納付命令を受けたことがある事業者は、新たに課徴金の額を通常の1.5倍に引き上げる。通常は不当な広告表示に伴う売上高の3%が課徴金となる。措置命令などを受けながらも繰り返し違反行為に及ぶ事業者が存在しており問題視されていた。

アメとムチを駆使して悪質広告を是正

もっとも改正景表法の直罰規定によって、誤認を招くような悪質広告がどこまで是正されるのかは未知数だ。実はこれまでも、商品やサービスの質や内容などを誤認させる「誤認惹起(じゃっき)行為」については、不正競争防止法に基づいて懲役ないし罰金を科すことができた。そのためある弁護士は、改正景表法の直罰規定について「まったく新しいものではなく、どこまで悪質広告の是正につながるかはわからない」と指摘する。

直罰規定よりもむしろ悪質広告の是正に効いてくる可能性があるのが、同じ改正景表法にて新設された、違反行為が疑われる事業者に対して自主的な是正を促す「確約手続」だ。景表法違反が疑われる事業者に概要を通知し、事業者が適切に広告を是正すると認められた場合、罰則を回避できる仕組みとなる。

優良誤認を招く広告表示のなかには、事業者が意図せず表示しているケースもある。これまでの景表法では、意図しない不当広告についても、措置命令や課徴金納付命令など重いペナルティーが避けられず、事業者自らが是正する意欲が失われるという点が問題視されていた。今回の改正景表法は、罰則強化というムチと、罰則回避というアメの両方を駆使し、悪質広告の是正を目指す内容になっている。

(日経ビジネス 杉山翔吾)

[日経ビジネス電子版 2024年10月1日の記事を再構成]

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