東京証券取引所での株式などの取り引きはこれまで午前9時から始まり、午前11時半から1時間の昼休みのあと再開し、午後3時で終了していましたが、5日から午後3時半までに延長します。

終了時間の延長は1954年以来、70年ぶりです。

きっかけとなったのは4年前の2020年に発生した大規模なシステム障害で、このとき東証では終日売買を停止する事態となりました。

これを受けて東証で検討を進めた結果、投資家の利便性向上と万が一システムに障害が発生した場合でも復旧後に投資家が取り引きに戻れる機会を確保するため、延長を決めました。

また、これにあわせて「クロージング・オークション」と呼ばれる終値を決める際の新たな仕組みも導入します。

午後3時半の前の5分間は注文だけを受け付けて売買は成立させず、午後3時半に注文を一斉に突き合わせて終値を決めます。

これまでは株価の終値が決まる取引終了の間際に注文が集中し、株価が大きく変動するケースもありましたが、東証はこの仕組みで投資家がほかの注文の動きを把握しやすくなり、価格決定の透明性が高まるなどとしています。

取引終了時間の延長や新しい仕組みの導入で、さらなる市場の活性化につながるかが焦点となります。

議論の経緯と「30分延長」の理由

東証はより多くの投資を呼び込んで市場を活性化しようと、これまで2000年、2010年、2014年と3回にわたって取引終了時間の延長を議論しましたが、実現には至りませんでした。

大きな理由は証券会社などの事務作業です。

証券会社や投資信託の運用会社は、取り引きが終了したあとも成立した売買に関するデータの取りまとめや、各銘柄の終値をもとにした投資信託の基準価格の算出などさまざまな事務作業に追われています。

終了時間を延長すれば、事務作業の時間もその分遅くなり、人件費などのコストが増えるなどとしてこのときは反対の立場をとっていました。

しかし、2020年10月に発生した東証の大規模なシステム障害で丸一日、取り引きができなくなった事態を受けて、業界では改めて取引終了時間の延長を議論することになりました。

延長によって、仮にシステム障害が起きても速やかに復旧すれば当日中に投資家が取り引きを再開できるという、投資家を保護する観点で検討が進められました。

この中では、取引時間が現在6時間から8時間以上となっている海外の取引所の事例も参考に、数時間延長することも検討されました。

ただ、延長時間が長くなるほど、証券会社などの事務負担が増えるといった意見や、投資信託の基準価格など投資家向けの情報提供が遅れ、紙面掲載の締め切りに間に合わなくなるといった指摘も出て、最終的に「30分の延長」で意見がまとまりました。

海外市場の取引時間は

東京証券取引所の取引時間は、今回延長されて午前と午後合わせて5時間半となりますが、海外の主要な取引所と比べると長くはありません。

東証によりますと、海外の主要な取引所の取引時間は、東証が今回新たに導入する「クロージング・セッション」の時間も含めるとロンドンが8時間35分、シンガポールが7時間6分、ニューヨークが6時間半、香港が5時間40分などとなっています。

東証としては今回の延長によって市場としての国際競争力も高めたい考えですが、国内外からさらに投資を呼び込むためには、成長が見込める企業の上場を増やすことや、業績だけでなく投資家向けの情報をより充実させるなど、取引所の魅力を高める方策を打ち出せるかが課題となります。

証券会社も準備進める

投資家の注文を仲介する証券会社では、取引終了時間の延長で不測の事態が起きないようぎりぎりまでシステムの確認を行っています。

東証は、今回の延長にあわせて新しい売買システムを稼働させますが、東京の大手証券会社ではこれに対応するため自社のシステムを更新しました。

ことし6月から、東証の新しいシステムに接続して問題なく取り引きできるかを確認するテストを繰り返し行っていて、この日は複数の銘柄に買い注文と売り注文を入れ売買が成立するかや、注文を処理する速度に遅れがないかなどを確認していました。

また、ほかの証券会社と共同で大量の注文を出しシステムに負担をかけても正常に動くかどうかを確認する「負荷テスト」を行うなど、細心の注意を払って準備を進めています。

みずほ証券トレーディングストラテジー室の渡部哲也室長は「何か月もかけて事前準備とテストを繰り返してきたが、最終的に漏れがないか注視している。日本の株式市場が注目されている状況の中で、新しい取引制度に問題なくスムーズに移行し、メリットがいかせるような対応や態勢を整えていきたい」と話していました。

企業の決算発表時間 前倒しも

取引終了時間の延長にあわせて動向が注目されているのが、企業の決算発表です。

現在、上場企業の間では取引時間が終了する午後3時以降に決算を発表するところが多くなっています。

取り引き時間中に決算を発表した場合、投資家が十分内容を読み込まないままあわてて売買し、株価が乱高下するおそれもあるためです。

ただ東証は、情報開示は速やかに行うべきだとして、上場企業に対しては取引終了時間の延長に伴って決算発表の時間を遅らせるのではなく、逆に発表を前倒しするなど柔軟に対応するよう求めてきました。

東証の要請を受けて、大手素材メーカーの「AGC」はこれまで午後3時だった決算発表の時間をことしから前倒しし、午後1時に変えました。

また記者会見は午後2時からとこれまでより1時間以上早めました。

当日のうちに自社の株価が乱高下するリスクはある一方、ほかの上場企業より記者会見や証券アナリスト向けの説明会の開始時間が早くなったことで出席者が増え、企業情報を広く発信できるメリットがあると感じているということです。

小川知香子広報・IR部長は「説明会の参加者が増えて質疑応答が活発になり、会社が届ける情報の質が上がっていると思う。株価が乱高下するリスクはあるが、トータルでみると発表時刻を前倒してよかったと思っている」と話していました。

ただ、今のところ決算発表の時間を前倒しする動きは一部に限られそうです。

東証は、3月期決算の上場企業で最初の3か月間の決算=第1四半期決算を取引時間が終了してから午後3時半より前に発表していたおよそ800社について、「5日以降の中間決算をいつ発表するか」を調べました。

その結果、発表時間を前倒しして午後3時より前にするところが5%余り、発表時間を変えないところが40%余り、取引終了時間の延長に合わせて発表時間を午後3時半以降にするところが30%余りだったということです。

専門家 “東証や上場企業が投資家に魅力伝えること重要”

東京証券取引所の制度改革に詳しい大和総研政策調査部の神尾篤史主任研究員は、今回の取引終了時間の延長について「投資家にとっては投資機会が増えることになり、東証としても新たな取り引きの場を提供するという意味でメリットになる」と指摘しています。

そのうえで「延長するだけで売買高や売買代金が増えるとは考えにくく、取引所で扱われる銘柄の魅力を上げていくことが重要だと思う。業績はもちろん、それをどう伝えるかということをセットにして、東証や上場企業が投資家に対して魅力を伝えていくことが重要だ」と話しています。

また、企業にとっては決算発表の時間も含めて情報発信のあり方を検討し直す機会になると指摘したうえで、「企業は原則として取締役会などで決まったことは遅滞なく開示していくことが求められていく。どのタイミングでどういった情報を出すのか、経営者は考えるべきだ。取引時間中に業績を開示するのであれば、あわせてその背景や業績の変動要因、会社の考え方もできるだけ速やかに知らせるなど、開示する情報の内容やタイミングを適切に管理することが求められる」と述べました。

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