記者の質問に答える国民民主党の玉木雄一郎代表=東京都千代田区で2024年11月8日、玉城達郎撮影

 「人手不足倒産」が過去最多ペースで推移する中、企業の3割近くが足元で非正社員の人手不足を感じていることが、帝国データバンクの調査で判明した。政府・与党と国民民主党は所得税が課税され始める「年収103万円の壁」の見直しに向けた協議を本格化させているが、非正社員の「働き控え」解消につながるかは予断を許さない。

 帝国データバンクが10月18~31日、全国2万7008社を対象に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」(有効回答1万1133社)によると、非正社員の不足を感じる企業の割合は全体の29・5%。前年同月比1・4ポイント低下し、13カ月連続で前月を下回ったものの、なお3割近くを占めている。

 業種によって偏りがあり、多い順に、飲食店64・3%▽旅館・ホテル60・9%▽人材派遣・紹介55・2%▽メンテナンス・警備・検査54・1%――と続いた。スーパーマーケットや百貨店を含む各種商品小売りも、48・9%が非正社員の不足を感じると答えた。

 パートやアルバイト従業員ら非正社員は「年収の壁」を意識して働き方を調整する場合があるとされる。「最低限の生活費には課税しない」という考えに基づく基礎控除(48万円)と、スーツ代などの「みなし経費」を差し引く給与所得控除(55万円)の合計額103万円を年収が超えると、所得税がかかり始めるからだ。

 例えば、大学生のアルバイト年収が103万円を超えると、扶養する親の「特定扶養控除」から外れ、親の税負担が増えて世帯年収が減る。これを避けるため年末に向けてシフトを減らす――といった具合だ。

 103万円を配偶者手当の支払い基準とする企業もあり、意識して就業調整する世帯もあるとされる。帝国データバンク情報統括部の旭海太郎副主任は「年末は書き入れ時なのに『壁』を意識して働かないケースが起こりうる」と指摘する。

 正社員を含めた人手不足が企業に与える影響は深刻だ。帝国データバンクによると、従業員の離職や採用難などにより人手を確保できなかったことが原因で倒産した「人手不足倒産」の件数(負債総額1000万円以上)は今年、10月時点で287件に上る。過去最多だった23年の260件を既に上回っており、2年連続で過去最多を記録した。

 このうち「2024年問題」に直面する建設・物流業の割合は全体の4割以上を占め、従業員数10人未満のケースは8割近くを占める。今後も大企業の賃上げペースに追いつけない小規模事業者を中心に人材確保が難しくなり、人手不足倒産は高水準で発生する恐れがあるという。

 一方、政府が20年代に最低賃金を全国平均で時給1500円に引き上げる方針を掲げていることついて、旭さんは「大事なことだが、103万円の壁に代表される所得税の控除額が変わらなければ、労働時間の減少につながる」との見方を示す。

 仮に時給が1000円から1500円になれば、3時間働いて得られた3000円が2時間で手に入る。「控除額を引き上げない限り、心理的な壁が大きくなって働く時間が短くなるだけ」(旭さん)というわけだ。

 控除額の上限が引き上げられれば、労働時間が増え、非正社員の人手不足解消にもつながる可能性がある。旭さんは「より働ける環境を望むのであれば、最低賃金の上昇を上回る形で、控除額の上限を引き上げる見直しをしなければならない」と指摘する。

 仕事はあるが、人手不足で受けきれない――。そんな企業の声はなくなるか。政府・与党と国民民主の協議の行方が注目される。【山下貴史】

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