住友化学は30日、2024年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が3120億円の赤字(前の期は69億円の黒字)になったと発表した。製薬子会社や石油化学関連事業などで減損損失を約2700億円を計上し赤字額は過去最大となる。25年3月期は製薬子会社でのコスト削減などで最終黒字を目指すが、市場では成長策の踏み込み不足を指摘する声も聞かれる。V字回復のシナリオには不透明感が残る。

同日、記者会見した住友化学の岩田圭一社長は「極めて大幅な赤字で、評価性の損失が多いとはいえ過去最大、危機レベルの数字だ」と述べた。主に子会社の住友ファーマと、中国メーカーの増産の影響などで採算が悪化している石油関連事業で減損を計上し、24年3月期の減損の合計は2694億円に上った。

市場が注目していたのは、24年3月期中に「止血」が完了し、25年3月期に成長軌道に戻れるか。だが、30日の終値は前日比17円安(4.8%安)の337円と、470円上げた日経平均株価とは対照的な動きとなった。市場では「ラービグを巡る構造改革案が具体策に欠け、構造改革に期待を寄せていた投資家が肩すかしをくらったとの受け止めからか」(立花証券の福永幸彦アナリスト)との声が聞かれた。

ラービグとはサウジアラビアの国有石油会社サウジアラムコとの合弁で、住友化学にとって持ち分法適用会社の「ペトロ・ラービグ」のこと。石油精製での競争力が低く、24年3月期は650億円の赤字に落ち込んだ。今回の経営戦略発表会で収益改善に向けた具体的な施策が示される期待もあったが、新たにアラムコとタスクフォースを設置し「1年以内に将来像の方向性を示したい」(岩田社長)との内容にとどまった。

経営戦略を説明する住友化学の岩田圭一社長(30日午前、東京都中央区)

収益改善には石油精製の部分を高度化する装置への投資などが必要だが、住友化学はそこへの追加投資はしない姿勢を貫いており、アラムコとの交渉が難航している。福永氏は「タスクフォース結成はプラス材料だが先に残した感がある」とみる。

赤字の最大の原因だった住友ファーマでは、基幹製品と位置づける子宮内膜症治療薬の「マイフェンブリー」など3製品の販売が伸び悩んでいることを受け、特許権とのれんの一部の減損に追い込まれた。減損額は1808億円に上る。

減損に加え、約1000人の人員削減や研究開発の絞り込みで1000億円以上のコストを削減。住友化学から住友ファーマに取締役を派遣するほか、債務保証による金融的な支援や企業再生の専門家も活用し立て直しを急ぐ。住友ファーマは24年3月期に本業のもうけを示すコア営業損益で1330億円の赤字となったが、25年3月期は10億円の黒字を見込む。岩田社長は「止血と同時に中長期にみてファーマにふさわしい体制が何か、あらゆる選択肢を検討していく」と話した。

住友ファーマ、石油関連事業などの減損や構造改革で、住友化学の25年3月期の連結コア営業損益は1000億円の黒字(前期は1490億円の赤字)に転換。最終損益も200億円の黒字を見込む。

ラービグを除く石化事業や医薬品事業の止血には一定のメドを付けた形だが、今後の成長戦略は力強さを欠く。農薬など農業分野や半導体材料などの成長領域に今後6年間で4000億〜5000億円を投じる考えを示した。東海東京インテリジェンス・ラボの中原周一シニアアナリストは「集中投資先というだけでなく事業構成として農業関連と半導体関連に絞っていく方針をより明確に打ち出せれば評価が上がったのではないか」と指摘する。

岩田社長は記者会見で「なんとしてでも25年3月期にV字回復し同時にファーマのスリム化、ラービグの位置づけの見直しなど抜本的構造改革を進め、成長軌道に回帰する」と力を込めた。過去最大の赤字を、将来の成長につなげられるか。ラービグの改善策を筆頭に、残された宿題はまだ多い。

(岡田江美、佐藤梨紗)

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