「倍速美容液」のマーケティングなどを担当する資生堂ジャパンの林真琴氏

資生堂が9月に発売した「ELIXIR(エリクシール)」の美容液が好調だ。40代以上の中高年女性の悩みに応える成分を配合し、肌へのなじみの速さにもこわだった。「倍速美容液」と称し、化粧品の成分目当てで買う「成分指名買い」や「タイパ」(タイムパフォーマンス)ブームを追い風に、11月中旬時点で出荷は68万個に達した。

商品名は「エリクシール ザ セラム aa」で9月21日に発売した。本体は50ミリリットル8910円で付け替え用もある。ドラッグストアなどの小売店を通じた発売前の予約数は19万7000個に達し、1983年のブランド誕生以来、エリクシールの全ての商品の中で最多となった。約2万店舗での9月の販売実績は計画を3割上回り、出荷数は9月末時点で52万個を突破した。

コアキシマイドなど21の成分を配合した「エリクシール ザ セラムaa」

好調を支えるのが40代以上の女性の悩みに応える21の成分を配合した点だ。同社の調査では35歳〜65歳の女性が「ハリがない」「シミが増えた」「毛穴が目立つ」など平均4.8個の悩みを打ち明けた。これらを同時にケアできる成分を厳選した。

中でも独自の成分「コアキシマイド」を強調する。肌の表皮と真皮をつなぐ基底膜が紫外線で傷つくと、老化が進行する仕組みを資生堂が発見。2万種の成分検査を経て基底膜のうるおいやハリなどを促すとわかった。30年超続けてきた皮膚研究の成果だ。

肌へのなじみの良さにもこだわる。成分数は多いほど浸透に時間がかかるが、独自の浸透技術でコアキシマイドを効率よくなじませる。「倍速美容液」の由来だ。

資生堂ジャパンプレミアムブランド事業部の林真琴氏は「最近は倍速で映画をみるなど時間の奪い合い。成分指名買いブームで一般の消費者も成分に詳しくなっており、成分数の争いや効果も大事。こうしたトレンドにダイレクトに応えた」と背景を説明。「一本でうるおい、しわ、乾燥、毛穴などを時短でケアできる」と話す。

国内のスキンケア市場は上向いている。英調査会社のユーロモニターによると、美容液など顔用スキンケア商品の23年の市場規模は約1兆7180億円。20年から11%伸び、コロナ禍前の19年(約1兆7880億円)に迫る。

化粧品口コミサイト「アットコスメ」を運営するアイスタイルによると、ここ1〜2年のスキンケア市場で選ばれているのは中価格帯の商品だ。高価格帯と低価格帯で二極化するメーキャップ商品と違い、「肌への浸透を目的としたスキンケアは安すぎてもダメ。安心感を与えてくれる価格と品質のバランスが重視されている」(アイスタイル)という。

資生堂はエリクシールを中価格帯と位置付ける。スキンケア商品の中価格帯は3000〜6000円だが、倍速美容液は人気の成分をふんだんに配合することで単価を高めに設定した。実際にアットコスメでは「(倍速美容液に)シミ予防のトラネキサム酸など高価格帯商品向けの成分も入っていてお得」といった声が寄せられているという。

資生堂は22年からエリクシールのブランド刷新に取り組んできた。コロナ禍で従来の顧客が低価格帯に流れたためだ。機能性を強くアピールできていなかった。

40歳以上に的を絞り、ブランドコンセプトを「スキンケア」から「エイジングケア」にシフトした。訴求点は「消費者の悩み」と「商品の機能」に置き、年間の新商品数も15品から2〜3品にして投資効果を高める。23年はシワ改善を促すレチノールなどの成分を配合したクリームなどが好調で、ブランド売上高の前年比伸び率は2桁台だった。悩みに応じた商品を助言するAI活用の肌測定サービスも導入した。

足元では空港などでの免税店販売を指す「トラベルリテール」や中国での事業などに苦戦する。資生堂は推し進める構造改革の中でエリクシールを「コアブランド」の一つに据え、好調な日本事業で美容液のシェアトップを目指す。

(西山良太)

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