申真衣(しん・まい)氏 東京大学卒業後、2007年にゴールドマン・サックス証券入社。金利・為替系デリバティブの商品開発・提案業務など、幅広い業務に従事。18年8月にGENDA取締役就任。19年6月より現職(写真=竹井 俊晴)
ゲームセンターを運営するGENDA。2018年に創業してから時価総額1900億円を超えるまでに成長した。背景には、積極的なM&A(合併・買収)がある。申真衣社長にGENDAの成長戦略を聞いた。

――創業6年でゲームセンター業界のトップを争う規模になりました。なぜ、ゲームセンターに着目したのでしょうか。

「まず、エンターテインメント産業自体が大きく成長していく分野であると考えています。人間を助ける技術は日々進歩しており、余暇の時間はどんどん増えています。今後はこの時間をどのように使うかが重要であり、エンタメはまさにここに深く関わるものです」

「その中で、ゲームセンターは10年頃から年率5%程度のペースで成長しており、成長産業と言えると思っています。海外を含めると市場の伸び率はより大きくなります。19年に米国で合弁会社を設立し、今年6月には米国で8000カ所以上の無人ゲームコーナー(ミニロケ)を運営する米ナショナル・エンターテインメント・ネットワーク(NEN)のM&Aを発表しました。年内にかけて、クロージングと呼ばれる最終手続きを完了させていきます」

M&Aを成長エンジンに

――創業時から積極的なM&Aを成長の軸としてきました。

「会社をつくった際、最初に『2040年に世界一のエンターテイメント企業になる』という目標を決めました。約20年間でその目標にたどり着くには、とてつもないスピード感が必要です。M&Aは一般的に時間を買うとも捉えられます。積極的に駆使することでより速い成長を達成したいと考え、戦略の柱に据えています」

「M&Aの実績を重ねることで、1年前と比べてもよりたくさんの提案をいただけるようになっています。もちろん数を追い求めているわけではないですが、幅広い選択肢があることにより、より良い形でM&Aを継続していけるのではないかという手応えを感じています」

――20年、創業間もない中で業界大手だったセガのゲームセンター子会社(旧セガエンタテインメント)を買収し話題となりました。

「当時我々がすごく小さな事業体であったにもかかわらずお話をいただけた。タイミングもありますし、20年以上アミューズメント業界に携わっている会長の片岡尚を信頼してもらえたことも非常に大きかったです」

――M&Aを実施するとき、どのような点が決め手になりますか。

「『世界一のエンタメ企業』という目標に共感してもらえるか、M&A価格に双方が納得できるかは大切にしています。我々はこれまで、資金を借り入れてM&Aを実施してきました。しっかりキャッシュフローを生み出せる会社という点を重視しています」

プラットフォームこそ勝ち筋

「エンタメビジネスは、知的財産(IP)であるコンテンツとそのプラットフォームの2つに大きく分けられます。現状、我々はリアルのプラットフォームになる事業を優先的に増やしていきたいと思っています」

「これまで大手エンタメ企業はIPを重視してきましたが、それをファンに届けるプラットフォームも重要です。我々が主力事業としているゲームセンターは、IPに景品などのリアルな形で触れられる場所としての価値が非常に高いです。今は、プラットフォームという面を取ることに勝ち筋があると考えています」

「ゲームセンターをコアにしてM&Aを続けています。セガエンタテインメント譲受時は国内で190店舗程度でしたが、現在は333店舗まで拡大しています。業界の中でしっかりシェアを獲得できれば、景品などのコラボレーションの幅も広がっていきます。さらに、最近ではレモネード販売やカラオケ事業も傘下に入っています。例えば、カラオケではアニメや映画などをコンセプトに装飾したコラボルームを実施しています。プラットフォームをたくさん確保して協業のラインアップを増やし、より魅力的なIPを持ってくる力をつけることが狙いです」

――M&Aでは、その後の統合作業であるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が重要になります。その点はどのように進めていますか。

「大前提として、我々は経営に行き詰まった事業を譲り受けることはほとんどありません。あくまで今よりももっと良くしていくために、一緒になるという観点でM&Aを実施しているため、痛みを伴うようなリストラなどはしたことがないんですね」

「基本的には、運営のオペレーションを1つに統合していく中で、お互いのノウハウなどを持ち寄って、より良い形にバージョンアップしていくという観点で取り組んでいます。純粋持ち株会社であるGENDAでは現在70人程のエンジニアを抱えているので、各事業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)も進めています」

――バックオフィス部門のPMIの状況はどうでしょう。

「上場企業のグループ会社となるため、情報開示や決算などのレベルアップが必要な会社はあります。そこは、GENDAの管理部がしっかり入って対応しています」

「会社としては今やっているのは楽しいことであるというメッセージを出していきたいと思っています。やはりエンタメの会社なので、みんなで一緒に頑張って成長していくことの楽しさをまずは社員に伝えなければならないし、私自身が楽しんでいるということが伝わってほしいと思っています」

米国での事業展開を加速

――24年の下半期は、米国でNEN買収がクロージングに向けて大詰めを迎えます。本件はどのような経緯で進んだのでしょうか。

「NENと実際にコンタクトが取れたのは、24年に入ってからです。3〜4年前からM&Aをしたいという思いはありましたが、接触の糸口がなかなか見つけられない状態でした。今後も海外でのM&Aは検討していきますが、NENは米国で最大規模の拠点数を持っているので、現状では一番理想的な相手先であると考えています」

――米国ではどのような事業展開を進める予定ですか。

「前提として、これまでNENが築き上げてきたことは尊重します。一方で、ゲーム機や景品は日本式のもののほうがより売り上げが取れるのではないかと想定しています。これは19年から米国で展開してきた約400店舗での経験に基づいた実感です。例えば、リボンがついた熊のぬいぐるみなど、いわゆる日本の『kawaii(かわいい)』雰囲気を感じてもらえるような景品への置き換えを進めていきます」

――世界一のエンタメ企業を目指すと言うことですが、具体的な姿は。

「日々、成長に向けて今一番正しいと思うことに取り組んでいるので、引き続き愚直に前に進んでいきたいと思います」

「世界一のエンターテインメント企業と聞くと、米ウォルト・ディズニーを思い浮かべる方が多いと思います。売上高や海外での展開数などが圧倒的なのはもちろんですが、何よりディズニーと聞くだけで楽しさが想像されるようなブランドである状態が本当の世界一ということだと思います。ディズニーと同じような事業ポートフォリオを作ろうというわけではありませんが、将来的にはエンターテインメント領域の中でどんどん事業を広げていきたいです」

(日経ビジネス 斉藤英香)

[日経ビジネス電子版 2024年10月21日の記事を再構成]

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