東宝は29日、映画制作スタジオ「東宝スタジオ」(東京・世田谷)で水素で発電した電気の利用を始めたと発表した。発電大手JERAから供給を受ける。水素発電した電力の商用利用は国内初とみられる。2030年ごろにスタジオの電気を低炭素化する計画の一環で、太陽光が発電できない時間帯でも電力供給を続けられるようにする。
JERAが袖ケ浦火力発電所(千葉県)の構内に専用の水素発電機(出力320キロワット)を設置した。年間で約100万キロワット時の電力供給を計画する。東宝スタジオは6月からJERAの太陽光発電所からも供給を受けており、水素発電の導入で施設の消費電力量の6〜7割を低炭素化できるという。
太陽光が稼働しない夜間や荒天時に水素発電機を動かす。東宝スタジオで年間に消費される電気は一般世帯でおよそ1500世帯分になる。東宝では30年ごろに再生エネや水素発電だけで施設の電気を賄うことを目指している。
水素はまず化石燃料から造る「グレー水素」を使う。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さず、ガス火力発電より環境に優しい。両社は30年ごろまでに製造時からCO2排出を実質ゼロにした水素への切り替えも検討する。
映像制作の現場でも脱炭素の動きは進み出している。特に映画制作は投入する人や資材が多く、環境負荷も相対的に大きい。英国映画協会などの調査では、大作映画の制作中に生じるCO2は平均で2840トンに達していた。
英国や米国、イタリアでは業界団体などが映画のグリーン認証制度を設けており、すでに大手映画スタジオが活用している。日本ではテレビ放映に伴うCO2排出を実質ゼロにした「グリーンCM」が登場したが、映画制作の現場では対応しきれていない。
東宝スタジオは6月からJERAの協力を得て、30分単位で再生エネ利用率を判定する環境を整えている。米欧に比肩する水準で脱炭素へ取り組み、環境配慮を求める消費者や作品の出資者からの理解を得る。
東宝スタジオは1932年に創立した映画撮影スタジオで、動画撮影だけでなくポストプロダクションと呼ばれる編集もできる。敷地面積は約7万8000平方メートルと、日本最大級の広さや設備を備える。「ゴジラ」シリーズをはじめとした映画や、テレビ番組、CMなどが数多く撮影されてきた。
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