上場企業による自社株の買い付けが進んでいる。取得枠の総額に対して8割が買い付けを済ませた。KDDIなど多くの企業がほぼ上限まで買い付けたが、ニデックなど自社の株価動向を見ながら買い付けタイミングをうかがう「待機組」もいる。
取得枠の上限まで買い付ける義務はないが、1株あたり利益の向上や需給の引き締めには実行が必要だ。未消化分は買い余力となるため、今後の進捗に注目が集まる。
日経500種平均株価の採用企業で、4〜9月に自社株買いを発表した177社を集計した。同期間に設定した取得枠(9兆8962億円)に対して、実際に買い付けされた額は12月2日までの開示で7兆7936億円と、進捗率は79%となった。取得枠のうち95%以上を既に買い付けた企業は99社あった。背景には株主らから資本効率の改善を求める声があり、積み上がった利益で株主還元する動きが広がっている。
実施率が約100%の企業のうち、実施額が最も多かったのはKDDIの約3000億円だった。そのうち約2000億円はトヨタ自動車の保有株の売却意向に応じて自社株TOB(株式公開買い付け)を実施した。その後は10月にかけて市場内で買い付けた。LINEヤフーは東証プライム上場維持基準の流通株式比率をクリアするため、1500億円の自社株TOBを実施した。
自社株買いの実施額が多かった企業には銀行や保険が目立った。MS&ADインシュアランスグループホールディングスや東京海上ホールディングス、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループがランクインした。金利高など事業環境が良かったほか、政策保有株の売却の加速で還元に資金を振り分けた。
4〜9月期決算発表の11月前後には、業績の上振れを反映して2回目の実施を発表する企業も相次いだ。KDDIは新たに最大1000億円を実施する。MS&ADや東京海上、三井住友FG、三菱UFJなども追加枠を設けた。
ニッセイ基礎研究所の森下千鶴研究員は「株主還元の意識の高まりのほか、減配リスクもある配当政策よりも自社株買いの方が手掛けやすく、手法として選ばれている」と解説する。
取得枠を設定したが買い付けが進んでいない企業もある。5月に350億円の枠を設けたニデックは2日、自己株式の取得状況を発表し、取得株、取得総額ともゼロだった。ニデックは5月にも上限110億円の自社株買いについて取得額はゼロだったと発表していた。自社株買いの目的を「株価が市場動向から想定以上に著しく乖離(かいり)した場合や経営環境の変化に応じ、機動的に資本政策を遂行するため」としている。期限は25年5月まである。今後取得が進む可能性がある。
200億円を上限にしているスクウェア・エニックス・ホールディングスも取得ゼロが続いている。期限は25年5月13日までだ。
丸井グループは5月に上限200億円を表明したが、10月に実施率16%で終了した。「将来の収益性が株価に十分に織り込まれない場合に取得する」としていたため、株価が自社株買いをする水準まで下がらなかったとみられる。11月からは新たに200億円を上限に自社株買い枠を設定し、同月末までに約25億円(進捗率13%)を取得した。
12月3日時点の発表では東京製鉄が43%(2日までの発表では30%)、富士通は48%(31%)、豊田自動織機は39%(33%)に上がった。島津製作所は3日、4日の東京証券取引所の立会外買い付け取引「ToSTNeT(トストネット)3」で最大172億円(最大400万株)の買い付けを委託すると発表した。取得額次第では進捗率が上昇する。
自社株買いは現状の株価が割安だと投資家に対してメッセージを発する「シグナリング効果」がある。ニッセイ基礎研の森下氏は「ルール違反ではないが、シグナリング効果を狙って毎回発表しているのであれば、投資家は注意が必要だ」と話す。自社株買い枠を使い切らず、成長投資などに資金を振り向ける選択肢もある。ただ、還元に対して投資家の期待が高まるなか、資金の使い道について会社側の丁寧な説明は欠かせない。
(鎌田旭昇、岡本孔佑)
=おわり
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