かつてアスベストが摩擦材として使われた自動車のブレーキ部分。擦り減ると部品の間に粉じんが蓄積された=厚生労働省の「石綿ばく露歴把握のための手引」から

 元バス運転手の男性が、車両整備の際に吸ったアスベスト(石綿)が原因で肺がんを発症したとして労災を申請し、バス会社側が在職記録の証明に協力しなかったにもかかわらず、今夏に労災認定された。相談電話をきっかけに支援した関西労働者安全センターは「会社の協力を得られない困難なケースでも、諦めないで相談してほしい」と呼び掛けている。

 同センターなどによると、京都府内に住む男性は1961~96年、旧京阪宇治交通に勤務。運転のかたわら、バスの整備作業に当たった。内燃機関の周りやブレーキ装置の部品に石綿が使用されており、空気噴射で清掃すると、石綿粉じんとみられるほこりが舞っていたという。

 2022年に肺がんを発症し、家族が23年12月開催の電話相談で「労災の可能性がある」と助言を求めた。同センターは会社側に勤務記録や、請求の際に必要となる署名「事業主証明」を求めたが、得られなかった。それでも同センターの担当者が背中を押し、24年2月に申請した。

 同年8月、京都南労働基準監督署から「認定する」と連絡が来た。労基署側が職権で調査して在籍記録を確認した他、石綿の影響を示す胸部の変質「胸膜プラーク」を確認したとみられる。男性には、労災休業補償や治療費などで数百万円の給付があった。

 同センターの林繁行さんは「事業主証明が出ないケースもたくさんあるが、認定されるケースも少なくない。まだまだ隠れた労災があるはずだ」と話している。【大島秀利】

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