ラピダスは、自動運転の機能やAI=人工知能などに欠かせない先端半導体の国産化を目指しておととし設立され、2027年ごろの量産化に向けて北海道千歳市で工場の建設が進められています。

工場では12月から「EUV露光装置」と呼ばれる最先端の装置の設置作業が始まり、18日は新千歳空港で記念の式典が開かれました。

この中でラピダスの小池淳義 社長は「北海道から全世界に半導体を届けるための記念すべき一日であり、確実な第一歩だ」とあいさつしました。

今回導入されるのは特殊な光で半導体の基板に微細な回路を焼き付ける装置で、世界で実用化されていない先端半導体の量産化を目指すラピダスには欠かせない存在です。

ただ、同じクラスの半導体は台湾のTSMCや韓国のサムスン電子、アメリカのインテルが来年から量産を始める計画で、ラピダスとしてはまずは来年4月に予定している試作ラインの稼働を軌道に乗せたい考えです。

小池社長は式典のあとの会見で「試作をつくるからには当然自信があるということになる一方、2ナノは相当難しい技術で、これから越えなければいけない課題も山のようにある」と述べました。

最先端の装置「EUV露光装置」とは

「EUV」とは英語の「Extreme Ultraviolet」の略で日本語では「極端紫外線」とも訳されます。

「EUV露光装置」は特殊な光を使って半導体の基板に微細な回路を焼き付ける装置でラピダスが量産化を目指す先端半導体の製造には欠かせない存在です。

オランダの半導体製造装置メーカー、「ASML」が世界で唯一、製造する技術を持っていて、「世界で最も精密な装置」とも言われています。

1台当たりの価格は500億円程度と高額で日本国内の導入はラピダスが初めてですが、世界では台湾のTSMCや韓国のサムスン電子などがすでに導入し、来年に予定している先端半導体の量産に向けた準備を進めています。

「EUV露光装置」 新千歳空港に到着

「EUV露光装置」を載せた貨物機の第1便は、12月14日午後、「ASML」のあるオランダから新千歳空港に到着しました。

空港関係者など数十人が見守るなか、作業員は専用の機材を使って少なくとも数十個の貨物を地上に降ろしたあと、車両を使って慎重に運んでいました。

半導体製造装置は振動に弱い精密な機械なため、空港を運営する北海道エアポートは、車両が走行するエリアで段差があった場所を舗装し直したほか、巨大な貨物を降ろした際に航空機がバランスを崩さないようにするための設備を整えたということです。

「EUV露光装置」は12月中に複数回に分けて貨物機で新千歳空港に輸送され、千歳市で建設中の工場に搬入される予定です。

千歳 半導体製造の拠点開設が相次ぐ

最先端の半導体製造装置が搬入されるなど、ラピダスの試作ライン稼働に向けた準備が本格化するなか、北海道千歳市では、世界的な半導体製造装置メーカーの拠点開設が相次いでいます。

千歳市によりますと、市内に拠点を開設することにしている装置メーカーは検討中のものも含めて37社に上っています。

具体的には、
▽「EUV露光装置」を生産するオランダの「ASML」や
▽「東京エレクトロン」
それに
▽アメリカの「ラムリサーチ」といった
世界的なメーカーがすでにメンテナンス拠点などを開設しています。

こうした中、従業員向けの住宅や出張者向けの宿泊の需要を取り込もうとする動きも活発化していて、市内では今年度中に合わせて65棟のマンションやアパートが完成し、ホテルは検討中のものも含めて今後6棟が新築・増築される見通しです。

このうち札幌の不動産開発会社は合わせて340室が入るホテル2棟を建設する計画で、再来年5月の完成を目指しています。

不動産開発会社「アルファコート」の樋口千恵 副社長は、今後、千歳市で100億円規模の投資を行う計画だとしたうえで「もともと観光需要があったところに半導体関連のニーズが出てきている。ただ、ラピダスの今後がどうなるか不透明なところもあるので、情報収集を徹底して柔軟に開発していきたい」と話していました。

政府 ラピダスに巨額の公的支援

ラピダスに対して政府は巨額の公的支援を打ち出しています。

経済産業省はラピダスの計画を国の重要なプロジェクトと位置づけ、3年間で最大およそ9200億円の支援を決めています。

政府は11月に発表した経済対策の中で、半導体やAI産業を支えるための新たな財源フレームを設け、2030年までの7年間で10兆円規模の支援を行う方針を示しました。

このうちラピダスの量産化実現のためにはさらに4兆円ほどの資金が必要だとして、政府による出資や金融機関の融資への保証が検討されていて、経済産業省は必要な法案を来年の通常国会に提出する予定です。

政府はこうした支援が適切か第三者による評価も取り入れていくとしていますが、巨額の公的支援に対してその妥当性や実効性が問われることになります。

専門家「ラピダス 発想転換が重要」

ラピダスの今後の課題について半導体産業に詳しい早稲田大学大学院経営管理研究科の長内厚 教授は「生産のノウハウや技術をどこから得るかは乗り越えなければいけない1つの壁で、来年4月に行われる試作がうまくいくかどうかが2027年の量産を占う貴重な指標になる」と述べました。

その上で「半導体はどこまでいっても規模の経済性が効くので、ラピダスもどこかで数を打つビジネスに転換する必要がある。技術的に優位性があるから客がついてくるだろうという発想は捨てて、数を追うためにはどのような技術を用いたらいいのかという発想の転換が重要だ」と指摘しました。

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